くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

風と鳥。

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ぼくはあの時のことを振り返っている。だけど心配はないよ。何も気にすることはないよ。ぼくがぼくのために生きていることとか、きみがぼくのために生きていないこととか、あまり関心がないよ。

ぼくは云う「ちょっと世界が眩しすぎない?」君は云う「元からこんなものだったよ」
ぼくは云う「君は少し優しすぎない?」君は云う「だいたいみんなこんなものだよ」
ぼくは云う「君はみんな同じだと思っているだろうけど、ぼくには君のような人が他にいるとは思えない」君は云う「私にはあなたがみんなと同じにしか思えない」
ぼくは云う「君はこの世に残された最後の希望」君は云う「あなたはこの世に残された最期の絶望」
ぼくは云う「なぜ、そこまでぼくの気持ちを玩具にするのだろう?」君は云う「これでお別れにはならないよね?」
ぼくは思う「それじゃあこれでお別れだね」

ぼくは何もしたくはない子供だった。そして何もしたくはない大人になった。そのわりには「なぜぼくには何もできなかったのだろう」と後悔している。それはなぜだろう。ぼくは誰の何にもなりたくなかったのに。

願った夢のそのほとんどは、始まったときにはすでに終わってしまっていた。それじゃあ、結局のところ誰が、何が悪いの?

空を見上げたら、まだ幼い太陽が昇っていた。ぼくは無視された虫のように、地面を這いずり回っていた。

そう、その朝は、一度でも消えたらすべて忘れられてしまうようなものだった。

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透明な風が吹いていたある日、ぼくは思った。「自分はこれから先、今一度立ち上がることはできないんじゃないか」と。ぼくの思いはそれこそ、最初から最後まで叶ったことなどなかった。最初から叶うことがないのなら、最後なんて見たはずもないのにも関わらず、ぼくは所謂最後ってやつを追い続ける。だから、すべて失くしてしまうことにした。これはすべてを失くすという決断の最初。では一体最後とは何なのだろう?

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何も云えない、書くことはない。何も伝えられない、伝える手段もない。何も成さない、成すべき方法を知らない。何も叶わない、叶えられるべき願いを覚えていない。何も想わない、そう想いながらまだ想っている。顔を知らない、大して問題じゃない。
答えなどいらない、答えなど存在しない。喜びたい、苦しみたい。笑いたい、泣きたい。誰とでもない、独りでもいい。負けたくない、だけど勝ちたくもない。何もわからない、何がしたいのか。必要がない、存在が。

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いつか、いもむしは空を飛ぶ。そう教えてくれた人がいて、ぼくはその言葉と願いを信じていたはずだった。けれど、ぼくは最近考えるようになった。
「サナギのまま終わるということもあり得るのだろうか?」そのような考えは、持つべきではなかった。いや、もしかしたらぼくはそのような考えを昔から感じてはいたのかもしれない。
ただ、信じたくないだけで?そのとおり、ぼくは信じたくないものは信じずに生きてきた。だからここに残されているのはせいぜい「被害妄想」や「誤解」というもの。

ある夜、夢の中でいもむしはぼくに語りかける。

「わたしは、なぜ蝶になれなかったの?」ぼくのせいだよ、ごめんね。
「これからも飛ぶことはできないの?」ぼくのせいだよ、ごめんね。
「それじゃあ、もうおしまいだね」ぼくのせいだよ、ごめんね。
「ぼくのせいだよ、ごめんね。」ぼくのせいだよ、ごめんね。
いつだって君は正しくてぼくが間違っているという事実は、そうだよ。

だけど。これは間違っていると知っていながら間違うということは、もしかしたら間違いではないのかもしれない。

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ぼくは終わらせに行くのだろうか。あれだけしがみついたものを終わらせることができるのだろうか。ずっとできなかったことを、することができるのだろうか。

真夜中、古いギターを片手に待っていたが、手が勝手に動いているだけだった。それはまさに、思ってもいないことを勝手に口にする感覚。ぼくの癖、ぼくのやり方。それらは今では致命的に間違っていたことなのだと感じる。思うことをただそのまま口にすることしかできなかった。ぼくは自分勝手だった。そして、自分の中にある冷たさを自覚することができなかった。だから思ったよ「これはほんとうはあたたかいものなんだ」って。「本当にそうなの?」って思いながらさ。

結局、ぼくは終わらせに行くのだろうか。今から「やっぱり」とか云うのだろうか。ずっと云えずにいることを、云うことができるのだろうか。

考える時間がほしいとは確かに云ってはみたが、考える時間などそもそも存在しなかった。そして、いつか生きていないぼくは思うだろう、「それは、しあわせなことだったんだ」って。

ぼくは思った「あなたの云ったことを信じる要素をください」だけど先に君が云った「あなたの云ったことを信じる要素をください」

そこでようやく、ぼくは初めて理解する。ぼくはこれで終わりになんかしたくない。だけどたぶん、今はもうそのすべてが終わってしまった後なのだろう。

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