くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

ほんの少しだけでも欲しくてさ。

 目の前に命題がある。それを解かなくてはならない。だけど僕はその命題をほったらかしにして、明日も仕事に行くだろう。そのうち欲望にも溺れ、誘惑に屈するときもあるだろう。僕はそういう人に失望している。そして僕も人なんだということに気づき、落胆する。その落胆が、時には愛おしいものだと思うこともある。

 

 「楽しい?」「楽しいと云われれば楽しくないわけではない」 それは裏を返せば楽しくないとも云えないわけではない。そもそも楽しいってなんだ。僕は話しているだけでも楽しいし、話しているだけでは楽しくないとも云える。うまく気持ちを表現できないのは、言葉が固まっていないからか、気持ちが固まっていないからかはよくわからないけれど、とにかく僕はやりたいと思っていることをやっていないし、やっていることはやりたいと思っていることではない。

 

 「彼氏と別れたの」と誰かに聞いた後、僕は駅まで自転車を走らせていた。その人は駅に到着したばかりという。そこへ出向いたらもう戻れないということを何度か考えながら止まることはしなかった。駅前でその人を見かけたけど、泣いていたかもしれない。でも僕は、結局声をかけることはしなかった。なぜならば、その人が何故泣いているのか、まったく理解できなかったからだ。

 

 「本当は一緒にいて欲しかったの」とその人は云う。「僕に出来ることなんてなにひとつない」と僕は答える。「そんなこと云わないで」とその人は云う。「少しずつでも楽になったらいいね」と僕は云う。その次のセンテンスは愛たるものかもしれない。愛たるものの後に来るのはきっとお別れだろう。愛たるものなんて僕は感じたことはないよ。どうしてだよ。僕は完璧に演じただろ。だってずっと哀しかったんだ。何処にいても誰といてもそれしか感じなかった。

 

 僕が話すことを聞く人がいるとは思えない。建前上も、本音もそう。だけど聞く人がいるということを信じてもいる。建前上も、本音もそう。

 

 僕は疲れ始めた。そして死ぬまで疲れようと思う。