くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

いつもより5分遅れで。

引っ越し間際の何もない、壁紙が真っ白な家の冷え切った部屋で、昔の家族旅行の夢なんかを見ていた。
出発前の慌ただしい食器のガチャガチャという音は、もう二度と聞くことはないだろう。

昔の僕だったら「決意」だなんて評して気持ちを晒す所だろうけど、
少しでもそう考えた時点で気が滅入ってしまった。

大事な人がいなくなって、大事な偶像がなくなって、
云ってしまえば今更の事ではあるのだけど、僕はほとんど色々なものを諦めてしまった。
決断して諦めたこともあれば、知らず知らずにそうするしかなくなってしまったこともある。

金を払って身体を借りるような行為に美徳はない。
水槽を寝床にするような、そんな深い不快感と共に。
最終的に僕は、「コンプレックスこそが原動力である」と結論付ける。
そして、その結論こそが、非常に大きなコンプレックスである。

僕は忘れない。
過去に見放されたことも、未来を見放したことも。
僕は好かれたいと思うより遙かに強く、好いてみたいと思っていた。
そこに気付くまでに、だいぶ時間がかかりすぎてしまったけれど。

戻るけど。
僕は戻るけど。
あの海にはたぶんもう誰もいない。

それでも、海から這い出て、そしてまた海に帰っていく。
その先で待ち続ける友達よ、僕からのささやかな気持ち悪いプレゼントをどうぞ。