くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

遠距離恋愛雑記4

海から戻ってきたら、時間は実に22時を周っていた。
携帯からはしばらく距離を置いていた。

なるべく前向きな気分になるために(このときは全てを忘れる努力)映画を借りてきた。
出来るだけ今の心境と全く関係のないジャンルで。
インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」と「ブロウ」それは今でも良く憶えている。

その頃には90%の諦めが渦巻いていた。
それゆえか、家を出る時にまったく考えなかった「仕事のこと」で頭は憂鬱な気分になっていた。
「またあの日常の洞穴に戻らなくてはいけないのか」という思いが強かった。

Sへの感情とKへの反省が自分の心の隙間をどれだけ埋めていたのだろうか。
それさえ消えてしまうとしたら、本当に空虚な気持ちになってしまうのではないか。
今更、御互いに何事もなかったかのように振舞うことなど出来ないのだ。

俺はわかっていた。
わかっていたが、それ故に。

結局、その日はまともに寝れなかった。
土曜日になり、大阪滞在は後1日。

今日Sから一切の連絡がなければどうするのか。
残された1日で、過去数年の気持ちを断つことが出来るだろうか。
それよりも、そのチャンスは残されているのだろうか。

俺は地球の隅に1人だけ残された気分になっていた。

今の仕事を手に入れる為に、数々のものを失った。
失ったという表現はおかしいのかもしれないが、地元だとか過去だとか恋だとか愛だとか家族だとかそういう類のものを全て失ったはずだった。
いや、自ら棄てた。
今になってはただそれだけのことなのだろう。

土曜日の日中。
昨日寝れなかったせいもあってか、実に無力になっていた。

ホテルのベッドルームで大きな窓から空を見る。
どこにでもあるコンビニに行って昼食を取る。
もうどこにいても良いような無気力さだ。

夕方になるにつれて、俺は帰る準備を進めていた。
明日の17時の新幹線に乗らなくてはならないのだ。

つまり、後24時間しかチャンスがないのだが、チャンス?
チャンスってなんだ。
本当は始めからそんなもの残されていなかったんじゃないか?
それを勝手に信じて勝手に裏切られて勝手に哀しんでいるのだから、自業自得じゃないか。

ヤケになっていた。
俺は自暴自棄になるタイプじゃないが、とにかく“ここ”に1人でいるのには耐えられなくなった。
一人旅じゃない、目的が違うのだ。

その日の夜になる前に、ようやくSから1通の連絡が来た。
日曜日の朝から夕方までなら時間が取れるようだ。

俺は素直に笑えているのだろうか。
後悔の底へ蟠りのある小さな期待。

俺はその日、絶望の中に少しの希望を込めた気持ちを思い知った。

言葉には出来ない気持ちがある。
思っていることが言葉に出来たら良いのに、いつもと思う。
俺はその方法を知らない。
知らないまま、朝を迎えてしまったのは間違っていたのだろうか。

その日の大阪ベイエリアでのデートは我ながら完璧だったと思う。
しかし完璧というのはあくまでデートプランとして完璧なだけで。
それ以上のそれ以下の意味も持たなかった。

朝の10時ごろに待ち合わせをした。
久しぶりの緊張からか、今までの経緯からか、もしかしたら来ないかもしれないという事も若干考えた。
しかし来られなくても仕方ない。
勝手に押しかけたのは俺だ。
それに、今日まで来るとは思っていなかったのだし。

とにかくそんな俺の考えと行動は矛盾を起こす。
自分は9時に着いていたのだ。
何故だろうか。
待ち合わせ場所の辺りを見回しても当然それらしい人はいず、時間になるまでは近くで時間を潰すことにした。

それにしても良い天気だ。
天気が良くて頭が痛くなる。
あまり寝ていないはずなのに全然眠くない。
仕事で鍛えたかいがあるからだろうか。
それとも、朝にホテルを出てくる前にコーヒーを飲みすぎたからだろうか。

大阪港駅から少し歩いて桟橋へ出た。
桟橋は風が強く、冬のこの時期にはあまり人手はなかったが、日曜ということもあって浜辺で少し黄昏ている人も見かけた。
俺は何本かのタバコを吸い終わって、9時半頃に今一度待ち合わせ場所の方まで戻った。

相変わらず、待ち合わせ場所にはそれっぽい姿は見えなかった。
そして念の為、昨日のやり取りのメールを確認してみることにした。
やはり10時だ。
今何時だ、10時にはなっていない。
じゃあ何故自分はここまで焦っているのだろうか。

…ばかばかしい。
そんなことを考えながら待っていた。


今日は終わり。
もう明らかに小説めいたものになってきている。
ノリで始めたはずなのに明らかにおかしい。
というか長くくどいな。
そろそろ終わりにするから。
ここから先は自分自身があまり書く気がおきないぞ。
じゃあ何ではじめてしまったんだろう。
ここで終わりにしたらしたで中々良いんじゃないか。
こういうエンディングも。