くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

純粋に哀しみたいが故に。

Sさんという知人が亡くなったらしい。享年34歳だったらしい。亡くなって3ヶ月は経過しているらしい。

らしい、というのは、そもそもその知らせを聞いたのがつい昨日、たまたま電話で知人のKさんという女性から聞かされたからだ。

どうも俺は他人が死んだ話ばっかり書いているような気がするのだが、そもそもこう見えてわりと知人が多い。(友人、というのは少ないが)
しかも大体が10歳以上は年が離れていたりする。なので、頻繁とは云わないまでも話を聞けば亡くなっている人が多々(でもないけど)いるのだ。

今日は少し思い出したことがあるので書くことにする。

このSさんというのは、俺が17歳のときにはじめてマトモに働いた会社の先輩だ。当時の俺は、これはこれはブラック企業胸を張って云えるような会社にいた。そんなときに知り合ったSさんは、当時29歳童貞で彼女なしという、これまたすばらしい人間だった。本人談による彼の経歴だが、元々は大学卒業後すぐに大手の会社に就職、そのまま2年働くものの体調不良で入院、その後にこの会社に就職といった感じだったらしい。なんか、月に30万円くらい稼いだら40万円くらい出会い系サイトに使って常に借金が返せないようなすばらしい人でもあった。

話を戻すが、俺の以前の仕事と云うのがアダルトDVDの宣伝というのは知る人ぞ知ることではあると思うが(爆発したい)、ここで研修時のことを書こうと思う。実は研修時、これから売られるエロDVDの局部にひたすらモザイクをつける、というこれまた崇高で神がかり的な業務を1日16時間ぶっ続けで3ヶ月やらされていた。まあその時の新人教育係的な立場にいたのがそのSさんだ。その仕事をSさんが付きっ切りで見てくれて、いろいろとアドバイスを貰った。(ほとんどタメにならなかった)
俺はというと、最初の3日くらいは「めちゃけいあわいえうあざいえいあお」って感じの奇声を発しないまでもわりと興奮気味で作業をしていたのだが(若かったな)、さすがに4連勤あたりになってくるとキツくなっていた。
毎日毎日、家に帰っても電車に乗っていてもそのシーンが頭から離れないほど汚染されてしまった
しかしそのSさん、もう会社に入って2年が経過しようというのもかかわらず、毎日その作業を2年繰り返しているという猛者であった。「なんでだ、いったい何が楽しいんだろう」と云うまでもなく思ったのだが、世の中変わり者というのもいるものだ。その後、俺はひーひー云いながらも毎日モザイクと格闘し続け、ようやく研修が終わってエロサイト作りの部署に送られた。結果的に今は普通のウェブデザイナーとして落ち着いている俺だけど、〜20歳までの経験は中々貴重だったのではないかと今になって思う。

とにかくSさんを含めて、人数が全員で30人いるかいないかの会社で当然のごとく最年少だった俺はいろいろとかわいがられた。Sさんだけじゃないにしてもいろいろな面白い人がいたことを思い出す。

そんなこんなで3年後に会社の部署が変わって六本木に異動したときに、Sさんを含め、当時の同僚や先輩たちとの交流が途絶えてしまった。

確か、Sさんと最後に会ったのは約1年半前。電話を貰ったKさんという女性もその時の先輩で、今は都内でBARを経営している。エロサイト作りで稼いだ金ではじめたらしいのだが、毎月赤字らしい。実はこの人も27歳にしてバツ3子供なしというこれはこれは物凄い方なのだが、まあ元気でがんばっているみたいだ。

そこのBARがOPENするので、という誘いを受けたときに懐かしいメンツと集まって酒を飲んだのだ。当然Sさんもそこにいて、軽く雑談をした。特別仲が良かったわけではないのにどうしたものか、こういう事態になると色々と思い出されてしまうものだ。

それで、肝心のSさんの死因というか原因なんだけど、「餅をのどにつまらせた」らしい。人が死ぬということは、天地がひっくり返っても笑えるようなものではないのだが、不謹慎ながら「Sさんらしい」とも思ってしまった。なんというか、死と云うのは大概哀しいものなのだが、俺にとってこのSさんの訃報はなんとも云えない気持ちになった。
「7年間エロDVDにモザイクをかけ続け、餅をのどにつまらせて死ぬ」という物凄い死に様だ。というか、34歳で「餅をのどにつまらせる」ってどういうことなんだろう。なんでそうなるんだ。世の中は不思議だ。俺は俺で哀しんでいるのだが、この哀しみをどう表現…というかどう噛み砕いたら良いのかまったくわからない。

まあどんな理由であれ、俺が今この場に生きて何かを書けているというのはかなり小さな確率なのだろう。
もしかしたら明日の朝飯で食う予定の餅をのどにつまらせるかもしれないんだ。

人っていろんな理由で亡くなっていくんだな。

それにしても相変わらずSさんが残したものというのは、ほとんどタメにならないものだった。