くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

光芒逭春雑記2 「微笑」

2日目、俺は何事もなく起き、重たい教科書をカバンに入れて学校へ向かう。
教科書は多く、俺にとっては毎日の脅威だ。
新品のその本には、あの懐かしい匂いがある。

空に挨拶をして、駅に駆け込み、電車に乗った。
昨日と同じ電車だ。
さて、とにかく昨日とは色々と違い、授業もしっかり6限まである。
そういえば昨日、部活動の説明のプリントかなんかを貰った気もする。
俺は部活に入る気はなかったが、一応眺めてみることにした。
若いころは不思議だ。
何故、電車内で仮眠を取るという計画がないのだろう。

学校に難なく到着し、苗字の張ってある机に座る。
時間はすぐに経過した。
HRギリギリにヨシトが「すべりこみせーふ」なんて云いながらクラスの後ろの方で他のクラスメイトにいじられていた。

キツイ女教師担任の丁寧なご挨拶が終わった。
どうやら朝のHRは延長され、このまま部活動の説明や、授業の説明があり、学級委員を決めるらしい。
しかも早速、1ヵ月後はテストという報告を受けた。
普通に考えれば、それは自然流れだったが、俺は憮然としていた。

部活動の説明。
各部活に所属しているクラスメイトがアツく語る形で進行した。
正直、俺はどの部活にも入るつもりはなかった。
まずヒトツとして、中学で燃え尽きた感が激しくあったからだ。
とはいえ気になってはしまう。
中学までやっていた野球は、練習のグラウンドが校舎とは違うらしい。
それなりの強豪で、一応推薦かなんかで入っている人がいると聞いた。
中には中学と同じ部活なんかもあったが、大体が高校で独立している。
はじめて見たが、同好会なんていうのもあるらしい。
ま、とりあえず良くわからないものの、それぞれ所属する部活についてクラスメイトがアツく語っている。
すべて終わってから、紙みたいなものを渡された。
所属する部活動を書くものだ。
もちろん、任意なので空白でも良い。
中には少しそそられるような説明もあったものの、家が極端に遠いので変に過酷な部活なんか入ったら帰りが極端に遅くなると思ったのでその日は何にも決断しなかった。

授業の説明。
中学でヒトツだった教科にいくつか種類があること、その教科によって担任が違うなどの説明を受けた。
俺は誰一人教師の顔なんてわからなかったが、その担任の名前が明確に書いてある紙を渡された。
俺と制服が違う生徒なんかは、「あー、日本史xxだって、イヤだなあ」なんて云っていたのを覚えている。

学級委員。
少し驚いた。
男1人と女1人ではなく、クラスで1人ということ。
中学では立候補で多数決などだったが、3年にもなると立候補者がいなくなって、時間がかかるのが通例だったが、さすが高校にもなると内申?に反映されるのか、決断が早かったこと。
内部生の「ここは、ナカイでしょ〜!!」というちょっとわからないノリの後、学級委員はナカイさんという女子に即効決まった。
それから挨拶。
なんというか、第一印象ではかなりしっかりしている人に思えた。

とりあえずなんだかんだで、スムーズに?HRは終了して、休み時間へ。
休み時間は昼休み以外はすべて10分だった。

休み時間になって、やることもない俺は、机の上でぼーっとしていると、野球部のサエキという人物が話しかけてきた。
制服は、俺とは違う。
「よー、28くん、、っていうのかな、中学は何をやってたの?」部活のことだ。
きっと先輩か誰かに勧誘でも頼まれたんだろうと思い「野球やってたよ、軟式だけど」と答えると、
「じゃあ野球部見にきなよ、俺は中学からずっと硬式だけど、うちはレベル高いし、楽しいよ」と云われた。
レベルが高い野球なんて、出来るはずもない。
中学の野球でも反吐が出るほど練習したと思っているのに、県の大会にすら出れなかったのだ。
しかし何より話しかけられたこと自体が嬉しかったからか「ありがとう、そのうち見に行くことだけしてみるよ」と云ってみた。
するとサエキは「今日来なよ、グローブとかは持ってないだろうから、見るだけでいいからさ」と満面の笑みで云われた。
推しをかわしきれなかった俺は「じゃあ今日行くよ、グラウンド、違うんじゃなかった?どこなの」と聞いた。
「終わったらまた話しかけるから、そのときに教えるよ」といい、サエキは自分の席の方へ戻り、近くの女子と話をしていた。
クラスメイトに話しかけられた俺は少し嬉しくなりながら、放課後を待ちわびた。
今思えば、気持ち悪い笑顔になっていたのではないだろうか。

2時限目は、国語だった。

教師は気の弱そうな女性教師だった。
明らかにバカにされるだろう、とそのときは思ったが、それは稚拙な中学の脳だったろう。
教師をバカにする生徒など誰一人おらず、クラスではやかましい存在なのであろう生徒も授業だけはしっかり聞いていた。
中学で散々バカをしていた自分にとってはそれは驚きだった。
自分も負けじと授業を受けるも、あの賑やかな中学の教室というのも少し懐かしいものだ。
時間が感じるのは遅く感じたが、集中力はなんとか持った。

休み時間になり、後ろの席のヨシトが話しかけてきた。
「28くん、今の国語教師だけど、どう思う?」
俺は一旦おかしく思いながら「どうもこうも、暗いよな、ヨシトくんはあの教師は知らないの?」
すると「あの人は新任じゃないの?俺は知らない、というか、ヨシトでいいよ、28くんはどういう風に呼ばれていたの?」
「俺も28でいいよ、なんか内部の人は教師とかみんな知っているみたいだし、、、俺は皆初対面だから全く知らないけど、クラスの女子が「あのセンコーやだよな」とか云ってたのがぐーぜん耳に入ったから、みんな知っているものなのかなって思って」
ヨシトはおどけた顔で「それは部活とかでかかわりあるからじゃないかな、後は先輩が悪く云ってるの聞いたとか、まあ女子のウワサなんてそんなもんでしょー」
俺はそのとき、はじめて高校で“助かった”と感じた。
なにしろこのヨシトという人物は俺に知らない情報を色々と丁寧に教えてくれるのだ。
まだ2日目とは云えども、俺からしてみたら、とても貴重な存在に思えた。
「ありがとう、また何かあったら教えてよ、そういえばさっきサエキ君?に終わったら野球部の練習見に来てって云われたんだけど、野球部はどこで練習しているの?」
少し驚いた様子でヨシトは「あ、野球部?28は野球やりたいの?確かバスで隣駅のz駅近くのグラウンドまで行っていると思うよ、電車で行ってるのは見たことし、、、俺は野球部の練習見たことないし、詳しくはわからない、ごめんね」と云った。
一人で行くのは不安なので少し助け舟を期待したが、そこまで云っても仕方ないだろうなと思い、「ありがとう」と云い、休み時間が終わった。

3時限目は数学。
自己紹介からの授業。
「学年主任」を名乗るその先生は怖そうなその怖い外見とは裏腹にところどころギャグや面白い話を混ぜたりして、中々興味深い先生だった。

4時限目は世界史。
フジシマと名乗るこの人の第一声が魅力的だったのをよく覚えている。
「俺は授業をまじめに聞くやつ以外相手にしないからなー、俺の授業をつまらないと感じたら外に出ていいぞー、寝るやつ、授業妨害するやつも遠慮なく外に出ていいからなー、もし外に出て誰かに何で外にいる、って聞かれたら「フジシマが出てけって云ったから」って云っていいからなー」
悪い気はしなかった。
というか、凄く大胆なんだな。
とはいえ、この教師の授業は面白く、とてもじゃないが出て行く人間は誰もいなかった。

昼休み。
俺は学校2日目で、初の昼休みと云うこともあり、とりあえず周りの様子を見てみることにした。
昼休みは確か40分くらいあったと思う。
早速ヨシトが話しかけてきた。
「28は、昼飯は持ってきているの?」
1階に学食があるということは知っていた。
当然小中と公立で給食しか食っていなかった俺には魅力的である。
しかし、小遣いが月に1000円しか貰えない俺は学食を食うなんて致命的だ。
「いや、俺は家から弁当持ってきているんだ、ヨシトは?」
「俺は学食!ちょっと行ってくるわ!」
と云い残し、他のクラスメイトと学食へ向かった。
一人残された俺は弁当箱を開き、自分の机で広げた。

正直、一人でメシを食っていたら誰か話しかけてくるもんだろうと思って、誰にも話しかけずにいた。
それは明らかに自分の驕りだった。
その光景が威圧的だったのか、誰も俺に話しかけてくる様子はない。

辺りを見渡してみると、内部生はクラスを隔たりなく移動してメシ食ってる様子。
他の外部生は外部生同士で、申し訳程度だが一緒にメシを食っている。
一人でメシを食っているのは俺くらいだ。
なんだかやたらと焦燥感が漂ってきた。
地元の仲の良いメンツなどの顔を想像していると無意味に哀しくなってくる。

だがどう考えても、俺は特に誰にも悪口などを云っていないし、話していないだけで嫌われる原因も特にないような気がする。
なので、これは時の運だろうと思い、一人でメシを食い終え、携帯なんぞをイジってみることにした。

少し時間が経ってから、ヨシトが戻ってきて、俺に話しかけてくる。
「あれ、28、一人でメシ食ってんの?」
空気読め、俺は寂しいんだぞと思いながら「あぁ、なんだかタイミング逃しちゃったみたいで、メシなんか一人でも食えるし、気を使わなくても良いよ」と云った。
「これからは学食にきなよ、そうしたら俺の仲の良いやつもいるし」と云ってくれた。
ああ、こうやって仲間は広げるのか、と思いながらも、まだ慣れない校舎と知らない面子におどおどしていた。
もちろん表面ではそうは見せずに…ね。
教室から出ることもなく、俺はそのまま昼休みを終えた。

5時限目は音楽。
初めての移動教室ということで、ナカイの案内もあり、クラス全員で移動することになった。
実はあまりにも複雑で、その後4、5回行くまでは音楽室の場所を覚えられなかった。
ヨシトが「5階から中学校舎の方に向かって階段Aを下がるじゃん、それで3階まで行って、職員室の方へ向かって、階段Bを下りて2階に行って、また高校校舎の方へ戻って、面談室のよこ」と云うとおり、とても複雑な場所だったのだ。
説明なしで行けるところあたりは、本当に内部生の特権だと思った。
なんというか、教師はミュージシャン上がりか?と思えるくらい服装も髪型も奇抜だった。

6時限は体育。
オリエンテーションみたいな感じだったのだが、俺が驚いたのは、保健だけじゃなくてすべての科目で男子と女子が別れるところだ。
体育といえば女子に格好良いところを見せるのが目的だろ、と当時は本気で思っていた。
まあそれほど運動能力に自信があったのだろうが、そんな俺にとっては悲劇以外の何ものでもなかった。
しかも3クラスくらい合同だった気がする。
顔がわかるのは、ヨシト。
一度しか話していないが、野球部のサエキ。
それしか知らない。
出席番号前後くらいはかろうじてわかる程度だ。
しかも合同となれば全くわからない。
オリエンテーションで何もなかったのが、幸いだ。
好きにペアを組め、ともし云われて、ヨシトが別のヤツと組んだら俺は確実に相手がいなくなること請負だったし、それでもし教師が「誰か28とくんでやれー」なんて大声で云い始めたら、それこそ悲劇だったからだ。
それは妄想で済んでよかった。

授業が終わり、ぞろぞろと教室に戻った。
帰りのHRが終わり、放課後。
俺はサエキと約束していたので、彼の方から話しかけてくるのを待つ。
しかしHRが終わり、帰宅組はどんどん教室からいなくなっていく中、教室から出たサエキは一向に戻ってくる様子がない。
10分ほど経過して、もしかして忘れられたかな、と思い、帰宅の準備をして帰ろうとする。

教室を出ようとすると「28くん!」
後ろから話しかけたられた。

女の声だった。

振り返ると、学級委員のナカイだった。
ナカイは俺が少し遅い帰宅なのに気を使ったからか「28くん、遅いね、もしかしてこれから部活?」と困った顔で俺に聞く。
「いや、サエキくんに野球部の練習を見にきなよって誘われて、待ってたんだけど、中々戻ってこないから忘れられちゃったのかなーと思って、あはは」とさも気にしてないように見えるように返事をした。
「あ、サエキ忘れっぽいからねー、もしかしたら28くんの方から声をかければよかったんじゃない?私がサエキにちゃんとしろって云っておくよ」そうナカイは云う。
「まあいいよ、明日機会があったら話してみるし、正直野球部は、、あまり、、って感じなんだ、見に行ってみるだけって感じだったし、気にしてないよ」
俺は精一杯強がって、教室を後にした。
正直俺は傷ついていたが、ナカイに話しかけられてダメージが半減したような気がした。

そして、何とも云えない気持ちを持って帰宅した。

無駄に続きます
名前、全部仮名です。