くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

光芒逭春雑記5 「5月」

5月の晴れたある日の出来事。
エイジの彼女のユーリとはじめて話した。
出会いは昼休みのいつもの中庭だった。

いつものように昼休みにヨシトに誘われて中庭に出ると、ほどなくしてシダが来る。

ヨ「この間、28と話したんだけど、今日ユーリちゃん来るみたいだよ」
シ「ユーリさんですか、女性が来ると緊張しますねえ」
俺「俺の方が気まずいよ、だって二人はユーリ…さんのこと知ってるんでしょ?」
ヨ「いや、ユーリとは中学で同じクラスじゃなかったし、話したことはあるけど、あまり知らないよ」
シ「僕も全く存じ上げないですねえ」

少し安心した。
ただでさえ内部生が多いこの学校で、既に空回り気味で元気を失くしている俺にとっては。

しばらくして、遠くからエイジとユーリと思わしき人を発見した。

エ「よう、待たせたな」
ユ「こんにちは、ヨシト、シダっちに、、、28くん?」
ヨ「あーこいつのことだったら28でいいよ」
俺「あ、それでいいよ、はじめまして」
ユ「こっちこそ、よろしくね」
エ「まあそんなに気を遣うなよ、メシ、食おうぜ」

そんな調子でおどおどしながらも会話をした。
ユーリさんの第一印象は、背が高く、美人だったってこと。
本当にモデルみたいに綺麗な人で驚いた。
とにかく俺は緊張してよく話せなかったのだ。
シダはもっと緊張していたようだけど。

ユ「エイジがいつもお世話になってます」
俺「全くお世話してないけどね、それにしてもユーリさん、美人ですね」
ユ「お世辞云っても何もでないわよー」
エ「28、こいつにお世辞は無駄だぞ」
ユ「せっかく美人っていってくれてんのに」
ヨ「まあまあ、そういえばユーリはいつも一人でメシ食ってる…わけじゃないよな、今日は一人なの?」
エ「みんな気まずいだろうから、俺がユーリだけを誘ったんだよ」
ヨ「あーそういうこと?それならこれからは女子をいっぱいつれてきてよ?」
ユ「いいよー」
エ「ヨシト、それが目的かよ…」

俺は内心、ビビっていた。
なぜならば、こういう、誰も知らないような場所に来ると男よりも明らかに女の方が怖いのだ。
その理由はわからない。
そう思っていると

ユ「28は、大丈夫なの?彼女は?」
俺「残念ながらふられたばっかりだから、気にしないでいいよ」
ユ「えー28くんモテそうなのにー」

余計なお世話だ、と思った。
モテそうと云う言葉は、全くアテにならない。
まるでモテなそうと云われているのと同義のように感じた。

ヨ「ユーリ、これからは絶対に女子を連れて来いよ?俺と…28の分、シダは…いいや」
シ「それは酷いですよう」
俺「苦笑」
エ「ヨシトもいいだろ、ユーリ、28に協力してやれよ、ふられたばかりでかわいそうだろ?」
ユ「確かにかわいそう」
俺「同情すんなよ、そんなに哀しんでねえし」
ヨ「またまたー」
エ「まあ、ふられたばかりのヤツはこうやってカッコつけるからな」
シ「僕は一切無視ですかー」
ヨ・エ「お前はどうでもいい」
俺「確かにどうでもいいよなー」
エ「おいシダ、28にも云われてるぞ?」
シ「28くん、酷いですよー」

そんなノリで半ば強引に女子を紹介されることとなってしまった。
文章だけでは通じないかもしれないが、若干新しい環境の新しい雰囲気に入りづらいのは紛れもないこの俺だった。
それはともかく、俺はあるひとつのことが気になっていた。
以前に話をしていた、タカイのことである。
しかし、新参者の俺がそれを切り込めるわけもなく、その日の昼休みは何気ない会話で終了した。

翌日の昼休み、ユーリは現れなかったので、エイジに切り込んでみた。

俺「そういえば、エイジがこの間話してた…タカイくんとの件はどうなったの?」
エ「あーあれ、聞いたら俺の勘違いだったっぽい、他にも数人、いたんだとよ」
ヨ「それってマジなの?なんか怪しい気が…」
エ「俺も怪しいとは思ったが、本人がそう云っているんだからこれ以上詮索するのはやめたのさ、それにタカイと話すのも面倒だしな」
シ「しかし、まあ僕は無視ですか?」
エ「お前はどうでもいい、というか、俺の口からじゃ中々聞きづらいんだよ、ほら、俺って嫉妬とかしなそうなタイプだろ?」
ヨ「確かに、お前が嫉妬したら少し気持ち悪いかもしれない」
エ「だろ?まあイメージってのは崩したくないしね」
俺「エイジってしっかりしているんだな」
ヨ「どこがしっかりしてるんだよ…、ただイメージ重視の人間じゃん」
エ「だが、イメージは大事だぞ、教師にも良いイメージを持たれるのとそうじゃないのじゃ、全然違うじゃないか、テスト少しミスっても、多めに見てくれるし」
ヨ「お前は本当に要領いいよな、俺も見習いたいもんだぜー」
エ「それはそうと、お前今度の中間は大丈夫なんだろうな?留年とかするなよ?」

そうだ、テストが近い。
もう2週間を切っている。
俺は家で全く勉強をしていないので、新しい教科のテストはかなり不安だった。
だがなんとかなるだろうとタカをくくっていたのだ。
中学じゃ、なんとかなってたし、、、

俺「テストなんだけど、ここのテストってどうなの?」
ヨ「教科によるけど、ラクなのはラクだよ、それにまだ中間だし、授業でやってる範囲しか出ないから、ノートしっかり取っていれば大丈夫」
エ「まあ、ヨシトの場合はノートなんて白紙だらけだろうけどな」
ヨ「あ、ばれた?」
俺「実は最近授業中眠くてさ、俺もあまり取ってない」
エ「それはまずいぞ、授業の内容だけは把握しとけ、塾とか行ってないなら特にな」
ヨ「大丈夫、大丈夫、ノートなんか取ってなくても」
エ「ノート提出、あんだろ?」
ヨ「…」
俺「…」
エ「お前ら、ヤバくね?シダもやばそうだけど、なんならクラスのやつにうつさせてもらえよ」
俺「ヨシトはともかく、俺は友達もココ意外にはいないし、誰もうつさせてくんないよ」
ヨ「だったら、テキトーに声かけりゃよくね?友達も広がるだろうしさ?」
俺「でもクラスのやつら、部活動同士でつるんだりしてんじゃん?女子はなんか話しづらいし」
ヨ「まあ俺はクラスのxにうつさせてもらうよ」

俺は少し孤独になった。
ここで友達が手助けをしてくれると完全に勘違いしていたからだ。
思えば、ここ数日、授業にもまともについていけてない。
このままではまずい、本気でそう思ったのだ。

その日の放課後、テスト勉強をしている学級委員のナカイにさりげなく話しかけてみることにした。

俺「ナカイ…さん、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
ナ「なに?」
俺「実はここ数日、全然ノート取ってなくて、特に数学Aと化学、やばいからノート見せてくれない?」
ナ「いいよ、28くん、クラスではあまりしゃべらないしマジメなのかと思っていたけど、意外と抜けてるんだね」
俺「いや、家が遠くて最近眠くてさ…、帰ってもゲームばかりやっちゃって身が入らないから」
ナ「そしたら、このノート、1日貸してあげるよ、でもちゃんと返してね?」

そういった経緯でナカイのノートを2冊借りて家に帰った。
ナカイには色々と助けて貰って悪いと思いながらも、クラスで一番頭の良い人にノートを借りられたのはとても大きな収穫だった。

家に帰ってから、そのノートを見て驚愕とした。
そのうまい文字、わかりやすいノートの書き方、しかも綺麗だ。
俺は昔から女子のノートは何故こんなに見やすく出来ているのだろうと疑問に思っていたのだが、ノートを綺麗に取れる=成績が良いという方程式はなんとなくあたっているような気がした。
思えば中学の頃も、成績の良いやつに限ってノートが綺麗だった記憶がある。

1日で、ノートを丸写ししたせいで、数日後のノート検査はAを取ることができた。
ナカイには相当感謝である。

そのせいもあいまってか、高校生活初のテストは無難に終えることが出来た。
60点以下なし、80点以上もなし、みたいな微妙な成績だが、ほとんどが平均点を越えていたと思う。

そしてテストが終わったある日の昼休みの出来事である。
中庭でメシを食っていると、エイジがユーリと数人の女子を連れてきたのだ。

エ「わりい遅くなった、今日はヨシトのリクエストどおり、女子を連れてきたぜー」
ユ「みんな私の友達だけどね、みんなでごはんたべよ」

そこにはユーリと、ユーリの友人の内部生2人と外部生1人がいた。

ヨ「おーユーリじゃん、なに?みんなA組?」
エ「お前…サイトウは知ってるだろ…」

ユーリの友人Aはサイトウという内部生だった。

ヨ「あ、お前サイトウ?変わったなあ」
エ「まあただでさえ生徒多いもんな…ってかお前サイトウとは3年の時も一緒だったろ…?」
ヨ「そうだっけ?よく覚えてないわ」
サイ「酷いヨシト!絶交!」
ヨ「うそだよ、うそ、で他の二人は?」

内部生の1名は、ものすごく明るく背の低い「エミ」
外部生は最近ユーリと仲良くなったらしい、ちょっと暗そうな子「ヨウコ」

ユ「今日はみんなでワイワイご飯を食べましょー」
エ「お前本当にワイワイすんの好きだよな」
ヨ「俺もワイワイすんの好きだぜ、そういえばシダは?」
エ「俺が今日は女子をたくさん呼ぶっていったら、ビビって他のヤツをメシ食ってるよ」
俺「シダってそこまで内気だったんだな、てっきりいじられかと思ったけど」
エ「まあ男の中じゃそうなんだけどな、女子が大勢いるとアイツビビっちゃうのよ」
ヨ「シダは昔からそうだからなー」
ユ「そんなことより、ちゃんと紹介するよ、こっちがエミでこっちがヨウコで、サイちゃんはこの子、28、覚えた?」
俺「なんとか覚えた」

その中で一番俺に無意味に食らいついて会話してくるのが「エミ」と名乗るその小さな鳥だった。

エミ「28くん、その制服は、外部からだよね?」
俺「うんそうだけど、やっぱり気になる?まだ慣れてないんだよね」
エミ「すぐわかるからねー、内部生多いから、でも私もそろそろその制服の方にしようと思ってるんだよ」
俺「へー、そうなんだ、内部の人は嫌がるのかと思ってたよ」
エ「俺もそろそろその制服にするぜ、今の制服ボロいんだわ、これ卒業までは着れないよな」
ヨ「へー、エイジもそうするなら俺もそっちにしようかな」
俺「出来ればみんな同じ制服がいいよね、やっぱ、なんか疎外感感じちゃうもんね」
ユ「私もそっちの制服のほうが可愛いし、いいなーって思うんだよね、ホラ今のダサいじゃん?」
ヨウ「私もユーリ達がこっちの制服にしてくれたら嬉しいなって思うよ」
ユ「じゃあさ、明日からみんなで新しい制服にしようか?」
エ「いいんじゃね?ヨシトはどうする?」
ヨ「それもいいねー、いつまでも28だけ外部制服だとかわいそうだもんな」

俺はたぶんこのときが高校に入って一番嬉しい思い出だったと思う。
みんなに気を遣わせてしまったのは少し悪い気もするが、何よりも本当に新制服は同学年で1割、全校生徒単位で考えると、それの1/10くらいだったからだ。
同じ学校にいるのに違う制服。
これほどの疎外感はなかった。

じゃあ、明日から新制服登校な!

誰が云い出すまでもなく、そのような運びになっていた。

そう、このときは、とても幸せだった。

無駄に長くなります

ここまでの人物

〜筆者〜

・28…俺)、男、出席番号は3、ひょろい、埼玉県T市に住んでいる

〜地元関係〜

・ケン…同級生、男、中学からの親友A、良く28が自宅に遊びに行く

〜高校関係〜

  • E組(28のクラス)-

・ヨシト…同級生、男、出席番号は4、刈り上げていてわりとイケメン、身長は高い、クラスの人気者、はじめて話しかけてきた、内部生
・サエキ…同級生、男、野球部、出席番号は後半のほう、ガタイがいい、身長は高い、内部生
・ナカイ…同級生、女、学級委員、内部生
・タカイ…同級生、男、チャラ男、ユーリと浮気疑惑、よく見れば大してイケメンではないし、頭もよくなさそうだ

  • その他-

・シダ…同級生、F組、デブ、中学2、3年はヨシトと同じクラスだった、ムードメーカー的存在、女にはモテないらしい、剣道部、内部生
・エイジ…同級生、C組、ヨシトの親友、中学2、3年はヨシトと同じクラスだった、松田龍平似、ユーリちゃんという彼女がいる、学校でも有数のヤリ手らしい、帰宅部、内部生
・ユーリ…同級生、女、A組、エイジの彼女、タカイと二人で浮気疑惑
・エミ…同級生、女、ユーリの友人、A組、背が低い、明るい、内部生
・ヨウコ…同級生、女、ユーリの友人、A組、暗そうな子、外部生
・サイトウ…同級生、女、ユーリの友人、A組、内部生、ヨシト、エイジらと中学3年は同クラス
・フジシマ…教師、男、世界史と日本史担当