くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

光芒逭春雑記7 「遊園地と恋を囀る鳥」

本当に暖かい日だ。
全てがわくわくに満ちている。
俺の中の卵もそんな陽気の中で少しずつ温められていった。

遊園地に到着した一行は、とにかく手当たり次第に乗り物を物色する。
こんなときの女の子の笑顔っていうのは素敵なものだ。
写真を撮りたいと誰かが叫び、シャッターの音も永遠だ。

エイジはユーリと手を繋いだり繋がなかったり、とりあえずいちゃいちゃする。
ヨシトは大騒ぎしながら、芸人顔負けの笑いを用意してくれる。
俺はその2人や女子達と雑談しながらも、ヨシトの勢いについていくだけで精一杯で上手く喋れているだろうか。
だがこれだけは真実だ。
言葉なぞなくても、楽しかったのだ。

1時間ほど経ってから、昼食になった。
既に歩き疲れていたにも関わらず、まだまだわくわくは収まらなかった。
とにかくメシを食ったら、またみんなで騒ぎたい、それくらいの元気はあっただろう。

昼食中に、トイレに行く俺を追いかけて、エイジが話しかけてきた。

俺「あ、例の話、いつごろから実行するの?」
エ「この後、俺がユーリを誘って2人行動をするから、それのついでにエミを誘ってくれないか」
俺「構わないけど、俺がこれ見よがしにエミさんを誘ったらユーリさんに怪しまれないかな?」
エ「いや、先にユーリを俺が連れ出すから、大丈夫だろ」
俺「ちょっと緊張するけど、なんとかするよ、どこで合流しようか」
エ「俺が携帯でちょくちょく連絡入れるよ」
俺「ヨシト…どうしよっか」
エ「アイツは適当にアイと行動させるよ、そういう風に云っているんだ」
俺「じゃあさ、それぞれが個人行動って感じだよね」
エ「ま、そういうこと」
俺「それはそれで気まずい気もするけど、せっかく聞き出せるチャンスだし、頑張ってみるよ」
エ「マジで、頼んだぜ」

トイレから戻り、みんなが昼食を食べ終わった後、計画通りエイジはユーリを呼び出して、なんとかマウンテンの方へ消えていった。
そして、俺よりも先にヨシトがアイさんを誘い、消えたので結果的にエミと俺の2人だけが残った。
実に気まずかった。
今までもほとんどエイジ経由で話していたものだし、まともに1対1で話すなんて初めてだったからだ。
だが、少しでも気楽だったのは、タカイとユーリの関係を聞くという“任務”があったことだ。
話す内容には、困らないはずだ。
そのはずだった。

俺「エミさんは、ユーリさんとはどういう話をするの?」
エミ「大した話はしないよー、彼氏がどうこうとか、そういう話」
俺「そうなんだ、ユーリさんに聞いて欲しいことがあるんだけど、大丈夫?」

思えば少し直球過ぎたか。

俺「エイジがさ、気にしているんだよ、タカイ君とユーリさんが2人で出かけているんじゃないかって」
エミ「え?そうなの?私は全然聞いていないよ」
俺「だからさ、ユーリさんに本当の所はどうなのかって聞いて欲しくて、、、」
エミ「それ気まずいなーというか、誰情報なの?」
俺「俺も詳しくはわからないけど、とりあえずエイジがめちゃくちゃ気にしているようだから」
エミ「チャンスがあったら、聞いてみるよ、でもすぐは難しいかもしれないなー」
俺「へえ、そうなの?やっぱそういう話は仲良い同士でもあまりしないものなの?」
エミ「うーん、ていうかタカイとユーリは前付き合ってたからさ、もしかしたらまだ続いているのかも、エイジ君にはナイショだよ?」

え?と思った。
エイジは知らないということなのだろうが、とはいえ、もう既に別れているのだとしたらそんなことは関係ないだろう。
問題は、今どうなのかであって…、と思ったが、俺はこれ以上は聞き出せないと悟った、するとまもなく

エミ「28くんは、彼女とかいないの?」
俺「エイジやヨシトから聞いてないの?ふられたばっかなの」
エミ「えーそうなんだーなんだか28くんはすぐ彼女できそうに見えるけど」
俺「そんなことないよ」
エミ「今、好きな人とかいないの?高校とかで…」
俺「いないよ、それに、まだそういう気分じゃないんだ」

俺はこのとき、何を思っただろうか、ある当然のことを考えていた。
そうだ、俺は男でエミは女だ。
俺は高校の友人というものをただそのひとくくりで捉えていて、男も女も理解したのはこのときだった。
そんな当たり前かつ、くだらないことを考えていると携帯が鳴る。
エイジから「そっちはどう?」の連絡だ。
俺は現状の報告をする。
エミさんが後で聞いてくれるらしいということ、とりあえずはそれだけだ。
エイジは「わかった」と返事をくれ、1時間後に入り口付近のとある店で落ち合うことにした。

1時間は長いな、と思いつつもエミと2人で遊園地内を散策することにした。
互いに既に歩きつかれているようだったので、喫茶店のような場所に入り、休憩することにした。

窓際に近い、2人席。
ふと、窓の外を見上げてみると、なんとヨシトとアイさんが手を繋いで歩いているではないか。

エミは気付かない様子。
俺は悩んだが、エミに注意を促し、会話をした。

俺「今、アイさんとヨシトが手を繋いで歩いてた」
エミ「え、どこどこ?」
俺「もう見えなくなった」
エミ「じゃあアイ、うまくいったんだ、前からヨシト狙いだったからね」

俺はアイさんとは一度もマトモに話していないのでどんな人なのかはわからなかったが、見た目からすると暗そうな感じには見えなかった。
むしろ美人だったし、ヨシトはおちゃらけた所はあるものの、男前なので無性に納得した。

エミ「もしかしたら、ヨシトもアイのこと好きだったのかな?」
俺「わからないよ、ヨシトはそういう話は一切してくれないからさ」
エミ「でも、そうじゃなかったらすぐにあーはならないよね」
俺「確かにそうかもしれない、いろんな意味で俺だけ部外者みたいだな」
エミ「いや、そんなことないよ、28くんだって…」

途中まで云って、エミは口ごもった。
俺は良く理解はしていなかったが、時間も時間なので話も途中で切り上げ、合流先に向かうことにした。
合流までの道では、中学の部活の話なんかをしていたと思う。

既に他の4人は俺たちを待っていた。
時間は16時ほど、俺は家が遠いのもあり、19時にはここを出たいと思っていた。
だが他のメンツは家が近いからか、最後までいる様子だ。
とりあえず合流後は、早い夕飯を食べることに。

移動中、ヨシトが俺の横にくっついて話してきた。

ヨ「あ、28、俺、アイさんと付き合うことになったわ」
俺「さっきエミさんと寄った喫茶店から、手を繋いで歩いているのを見たよ、おめでとう」
ヨ「覗き見だな?」
俺「違うよ、たまたま見えただけ」
ヨ「ま、とりあえずそんなわけで、俺この後アイとパレード見るからよろしくな」

何がよろしくなのかは良くわからなかったが、このままだと帰れないのではないかという不安が過ぎったことだけは確かだろう。
そう云って輪の中に消えていった。

夕飯は6人で普通に話しながら食べた。

だが案の定、それが終わってからパレードという名高いご親切の開始と共に、ヨシトはアイと、エイジはユーリと共に消えていった。
やはりこの状況か。
エミだけ1人置いて帰宅するわけにもいかないのだが、時間も時間だ。
俺は家に帰らなくてはならない。
時間は18時を回っている。
これから帰宅しても21時近くなることは間違いない。

しかしなんというか、わくわくした女の子はどんな人でも魅力的だと思う。
笑顔は素敵だ。
俺はそのとき、本当にそう思った。
それは今でも思っている数少ない真実の1つだ。

エミ「もっと前の方で見ようよ」

断る理由などいくらでもあったが、その誘いを断ることは出来なかった。
乗るべきではなかったか。
ああ、乗るべきではなかった。

エミ「…」
俺「どうかしたの?」
エミ「28くん、私と付き合って…欲しい」

ああ、予想はしていた。
そもそも集合の時から何かおかしかったのだ。
なんというか、そういう空気というか、そういう環境が。
俺は一瞬の内に何度も悩んだ。
何度も何度も何度も悩み、決断をした。
俺はこの小さく囀る鳥の、一心の決意を、裏切るのだ。

俺「考えさせて欲しい」
エミ「私じゃダメですか?」

ダメだ、俺の方がダメなのだ。
この人は、何も悪くはない。

俺「ごめん、まだ結論が出せない」
エミ「でも、断られなくて良かった」

そんな会話だったと思う。
他にもいくつかくだらない会話をしたが、良くは憶えていない。

俺はお土産なども全く買わずに、20時前には急いで電車に飛び乗った。
答えは俺の中で渦巻いていた。

まずひとつは、トラウマと云ってしまえば大袈裟だが、中学の時に彼女が出来ると同時に友達が皆無になったこと。(揉め事を起こす俺が悪かったが)
そしてもうひとつは、距離的な問題と、そもそもエミのことをあまり知らなかったこと。
付き合ってから知れば良いといえばそこまでだったが、その場空気にのまれるわけにはいかなかったのだ。

俺の気持ちはいつまでも曖昧なままだった。
1日で考えがまとまるはずはない。
とにかくエミからの「答えまだ?」を極端に恐れていたということだけは憶えている。

帰宅が23時近くなり、母親にこっぴどく叱られた。

無駄に続きます

ここまでの人物

〜筆者〜

・28…俺、男、出席番号は3、ひょろい、埼玉県T市に住んでいる、バイトを始めた、ボランティアに参加している、エミに告白された

〜地元関係〜

・ケン…同級生、男、中学からの親友A、良く28が自宅に遊びに行く、ボランティアに参加している

〜高校関係〜

  • E組(28のクラス)-

・ヨシト…同級生、男、出席番号は4、刈り上げていてわりとイケメン、身長は高い、クラスの人気者、はじめて話しかけてきた、内部生、アイと付き合い始めた
・サエキ…同級生、男、野球部、出席番号は後半のほう、ガタイがいい、身長は高い、内部生
・ナカイ…同級生、女、学級委員、内部生
・タカイ…同級生、男、チャラ男、ユーリと浮気疑惑、よく見れば大してイケメンではないし、頭もよくなさそうだ

  • その他-

・シダ…同級生、F組、デブ、中学2、3年はヨシトと同じクラスだった、ムードメーカー的存在、女にはモテないらしい、剣道部、内部生
・エイジ…同級生、C組、ヨシトの親友、中学2、3年はヨシトと同じクラスだった、松田龍平似、ユーリちゃんという彼女がいる、学校でも有数のヤリ手らしい、帰宅部、内部生
・ユーリ…同級生、女、A組、エイジの彼女、タカイと二人で浮気疑惑
・エミ…同級生、女、ユーリの友人、A組、背が低い、明るい、内部生、28に告白してきた
・ヨウコ…同級生、女、ユーリの友人、A組、暗そうな子、外部生
・アイ…同級生、女、ユーリの友人、F組、普通の子、内部生、ヨシトと付き合い始めた
・サイトウ…同級生、女、ユーリの友人、A組、内部生、ヨシト、エイジらと中学3年は同クラス
・フジシマ…教師、男、世界史と日本史担当