くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

光芒逭春雑記8 「一つの決意」

風が身体を掠る。
俺は近くなった太陽を見る。
お決まりの朝だ。
一段と小さくなった心を電車に乗せる、お決まりの朝だ。

学校に行くのは、少し億劫だった。
昨日のエミの告白を聞いてしまったからか。
それに対する答えを考えていなかったからか。
期末テストが近くなっているからか。

あの後、すぐには何もなかった。
季節は過ぎ、7月になっていた。
俺はというと、別段変わりはなかった。
学校から帰り、バイトかレッスンに行く平日。
ボランティアへ参加するか、地元の親友の家に行くか、家でゲームをするかの休日。

時はあっという間に過ぎた。
だが、平和な日々は長くは続かない。
そんなある日の学校での出来事だった。

いつものように4人で昼食を中庭で食事をしていると、エイジが喋り始めた。
辛辣な表情だ。

エ「みんなに聞いて欲しいことがある、俺は近々学校を辞めるかもしれない」

みんな、一体どうしたのかわからないような表情だった。
もちろん、俺も例外ではない。
第一声を発したのは、ヨシトだった。

ヨ「一体、どうした?俺らで良ければ何でも聞くぜ、な?」
シ「もちろん、エイジ君らしくないですよ」
俺「もしかして、何か重大なことでもあったの?」

エイジは少しためらった後、深呼吸をしてから俺たちに返事をくれた。

エ「実はな、E組のxって奴に話を聞いたんだが、あのタカイとユーリの件、マジだったんだ」
ヨ「え?浮気してたって件?あれは解決したんじゃなかったの?」
俺「まじで?エミさん、あれから何も云ってなかったし、何もなかったのかと…」
シ「でも、それと学校を辞めるってこと、何か関係があるんですか?」
エ「いや、それを放課後に問い詰めようと思っているんだが、そのせいでもしそれが事実だったら、俺はもしかしたらタカイを殺してしまいかねない」
ヨ「いや、それは大袈裟じゃないか、それに、タカイとユーリは何か接点でもあったのかよ」
エ「それは、わからないが、、、」

俺は一瞬、ドキっとした。
エミに、タカイとユーリが元恋人同士だということを聞かされていたのだ。
だがこの状況を鑑みるに、その事実を知っているのはこの中で俺だけのような気がした。
別に隠しておくような問題でもない。
俺はさらっと、伝えることにした。
何よりもそれが、後々に繋がる後悔になるとは知らずに…。

俺「いやエイジ、ヨシト、エミさんに聞いたんだけど、タカイくんとユーリさんは元恋人だったらしいよ」
エ「…え?お前なんでそんなこと知ってるんだ?それはマジか?」
俺「本当かどうかは知らないけど、エミさんがそう話していたから」
エ「それがマジなら何で云わなかったんだ?」
俺「いや、てっきり知ってると思って」
ヨ「まあそれが事実なら、浮気のラインもかなり浮上してくるよな」

エイジは一見冷静そうに見えたが、心の中に燃える炎の存在には皆気付いていた。

エ「俺が放課後、タカイを問い詰める」
ヨ「聞くのはいいと思うが…、あまり変に騒動にするなよ」
エ「いや、アイツの答え次第では、どうなるかはわからん」
シ「落ち着いてくださいよー」
俺「こうなっちゃった以上、仕方ないよ、聞けば誤解かもしれないってことに気付くかもしれないさ」

そんなわけで、放課後はエイジがタカイを問い詰める計画が立った。
いや、立ってしまった。
良く思い返せば、俺が揉め事を嫌う傾向にあったのはこの頃がはじめてかもしれない。
地元では揉め事は大歓迎だった。
退屈だったし、それがステータスだと感じていた痛い頃だったからだ。
だが、俺は不安だった。
何よりもここまでちゃんとした友達でいてくれたエイジが学校を退学することなんかになったとしたら、純粋に寂しいからだ。
俺は他人事だと自分に言い聞かせながらも、緊張していた。

5時限目の授業後の休み時間、後ろの席のヨシトが話しかけてきた。

ヨ「放課後、俺ら呼ばれてないけど、どうする?」
俺「さすがに気になるよね」
ヨ「俺なんて気になるどころの騒ぎじゃないよ」

そんな俺たちと気が合ったか、F組のシダがやってきた。

シ「みなさん、放課後どうします?」
俺「今それを話してたところなんだ」
ヨ「さすがに、放っておくってわけにはいかないだろ」
俺「だからといって、一緒にいるっていうのもなんか違わないかな?」
ヨ「一緒にいるわけじゃないよ、密かに監視して、何かありそうなら出てく…それでどうだい?」
シ「どちらにしても気になりますよねー」

中途半端な状態のまま、チャイムが鳴ったのでシダはクラスに走って戻っていった。
結局、どうするか決まらないまま6時限が終わり、そのまま放課後へ。

タカイは同じクラスだ。
エイジから駆けつけてくるとしたら、こちらに来るはずだ。

ヨ「多分エイジがココに来るはずだから、それまで何かしているフリをして成り行きを待つか」
俺「それがいいかもしれない、妙に気にしすぎてエイジをキレさすのもどうかと思うしな」

そんなわけで、無駄に何かあるようなフリをしてクラスで待機することにした。
そもそもエイジは、本当に行動に移すのか、それがわからなかった。
だが、あのようなヤツのことだ。
云った事は確実にやってのけるのだろう。
悪い意味で期待は裏切ることはなく、5分もしないうちにエイジが俺たちのクラスへ来た。

エ「タカイ、ちょっと来い!」

でかい声だ。
教室に残っている生徒の半分は振り向いたんじゃないだろうか。
タカイはバツの悪そうな顔で、エイジの呼びかけに応じようとしない。
すると、エイジが教室の中に入り、タカイを引きずり出そうとする。

やばい。
これは明らかに殴り合いの雰囲気だ。
その“雰囲気”の察知能力だけは、公立出身の自分が一番詳しいだろう。

エ「テメエ、ちょっと来いって云ってんだろ!」

その怒号とともに、教室に残っていたほかの生徒も集まってくる。
このままでは、教師が来るのも時間の問題だろう。

思慮を巡らせているだけの俺とは違い、真っ先に状況を変えたのは。
他でもないヨシトだった。

ヨ「な、エイジ、ここじゃまずいだろ、外に出て、タカイ含めて話をしようぜ?」
エ「お前にはかんけーねー」
ヨ「どっちにしてもこのままじゃセンコーが来て、状況もわからないまま、終了だぜ?」
エ「確かにな、、、オイ、タカイ、ちょっと外へ行くぞ!」
ヨ「わりぃ、28、お前も来てくれない?」
俺「わかった、行くよ」

そんなやり取りをして、4人は中庭近くに移動した。
だがこの3対1の状況で乱闘にでもなったら、俺たちは全員ヤバイ状態になりかねない。
何よりもそれを懸念していたのは、ヨシトだと思う。
俺は深いことまでは考えていなかった。

タ「おいおいどういうことだよ!事情を説明しろよ!」
エ「俺の顔みたら事情なんてわかるだろ?」
タ「全然わかんねえよ、俺もう行くぜ?」
ヨ「ちゃんと事情を説明したほうがいいんじゃないか?タカイはマジでわからないかもしれないわけだし」
エ「お前、ユーリとこそこそ俺にナイショで会ってるって話だろ?」
タ「会ってねえよ」
エ「俺お前のクラスのxに聞いたんだぜ?今更言い逃れするつもりか?」
ヨ「まあ落ち着けって、タカイマジで何もねえのか?」
タ「ねえよ、マジ部活あるから行くぜ」
エ「もしマジで何もねえっていうなら、裏を取るぜ」
タ「裏?」

エイジはとっさにタカイを押さえつけて、後ろポケットにある携帯を俺に投げてきた。
そして、タカイはキレた。

タ「おい!何すんだよ!」
エ「もし何もやましいことがねえなら、見ても構わないよな?」
タ「ふざけんなよ!」
エ「おい、28、お前その携帯の中からユーリの名前を探してくれ」

俺はマジかよ、勘弁しろよと思いながら、携帯を開いた。
すると開いた瞬間に驚いた。
というか、驚愕したのだ。

なんと、携帯の待ち受け画面がプリクラだったのだが、それに映る女の方に見覚えがある。
俺は考えるまでもなく、言葉にしてしまった。

俺「おいおい、タカイくん、この隣にうつっている人はユーリさんじゃないか」
エ「なんだと!おい、貸せ!」

俺はとっさにエイジにタカイの携帯を投げた。

エ「タカイ、言い訳は?」
タ「…」

このままだとヤバイ事になりかねないと真っ先に察知したのは、やはりヨシトだった。
俺は何故かこの状況にワクワクしていた。
我ながら、黒いやつである。
なぜならば、タカイはクラスでも中々気に入らないやつだったからだ。
エイジは当然キレている。

エ「タカイ!てめえ!」
タ「エイジと付き合ってることは知らなかった!」
エ「お前んなことユーリから聞かされているだろ!」

今にも殴りかかりそうな雰囲気だったが、所々にヨシトや俺が入って防いでいた。
殴ったら停学、度合いによっては退学も有り得る。
しかもタカイの性格上、完全に自分が助かる手段をとりそうで、面倒なヤツな気がしたからだ。

エ「ヨシト!ユーリを呼んで来い!」

これで状況はますます泥沼化した。
とどのつまり、修羅場である。
エイジは今にもタカイを殴りかけそうだったが、タカイがビビっていたのでここは同情してか、それ以上攻めることはなかった。
何はなくとも、状況を聞くのが先だ。
実は俺もこの状況は予想していなかったのだ。
タカイはとてもモテるようには思えなかったし、それに浮気疑惑もほぼガセかもしくは、たったその1回きりだと思ったいたから、その後の展開が気になっていた。

10分ほどしてから、部活中だったユーリを半強制的に中庭に連れ出してきたヨシト。
額には汗が染みていた。

エ「ユーリ、コレを説明しろ」

打って変わって、冷静になっていたエイジがハテナマークのユーリに向かってタカイの携帯を投げつける。
しかし振り返ってエイジを見てみると、冷静ではなく焦燥の表情と云った方が近かっただろうか。

エ「ユーリ、説明しろ」
タ「だから、俺とユーリはそんなんじゃないって」
ユ「ノブ(タカイの名)どこまで話したの?」
タ「何も話してねえ、というか俺らの間にそんなねえだろ」
エ「フタマタか?」
ユ「そういうわけじゃない」
エ「じゃあ説明しろ」
タ「…セフレ」

おい!と俺は思った。
それは一番避けなくてはならない答えだろ、と。
事実はそうだとしても、これだけは云ってはいけない。
俺はこの瞬間何が起きてもおかしくないと思った。
今まで冷静だったヨシトですらも、頭に血が上ったに違いない。
だがそれを覆したのが、エイジの回答だった。

エ「じゃあお前とは別れるわ、じゃな」
ユ「ちょっと待ってよ!エイジ!」
エ「俺はビッチに用はないから、じゃな」

そそくさと教室方面に戻るエイジ。
俺とヨシトはあっけに取られたが、後を追うようにエイジを追う。
ユーリは泣いていたが、同情の余地はもはやなかった。

ヨ「いいの?あんなんで」
エ「云ったろ、俺はビッチに用はない、結果女がそこまでだったってことだろ」
俺「俺ならあそこまで冷静にはいられないけどな…」
エ「それはお前、事実がハッキリしたからどうでもいいじゃないか、ははは」
ヨ「にしても、ユーリがあんなやつだとはなあ」
エ「俺も彼女いなかったらセフレの1人や2人いるよ、ヨシトもだろ?」
ヨ「確かに今はアイがいるが、そうじゃなかったら1人や2人…、28もだろ?」
俺「あっ、ああ、そうかもな(俺童貞だ…orz)」
エ「とりあえず俺便所〜」

エイジは中々戻ってこなかった。
便所からゴミ箱を蹴るような音が聞こえてきた。
俺はこの時、少しだけ胸からこみ上げるものを感じた。
だが、何はともあれ、事を荒立てずに済んだのは良かった。

結局、その日は3人でメシを食って帰ることにした。
エイジは終始明るく振舞い(無理しているようにも見えた)
ヨシトは「この先ユーリをつきあいを続けるのは難しいかもなー」なんて云ってた。
俺は2人の話を聞きながら、所々突っ込みとボケを繰り返していた。
エイジにとっては忘れられない夏になったことだろう。

期末テストまで、2週間を切っていた。

ほんと、無駄に続きます

ここまでの人物

〜筆者〜

・28…俺、男、出席番号は3、ひょろい、埼玉県T市に住んでいる、バイトを始めた、ボランティアに参加している、エミに告白された(返事は保留)

〜地元関係〜

・ケン…同級生、男、中学からの親友A、良く28が自宅に遊びに行く、ボランティアに参加している

〜高校関係〜

  • E組(28のクラス)-

・ヨシト…同級生、男、出席番号は4、刈り上げていてわりとイケメン、身長は高い、クラスの人気者、はじめて話しかけてきた、内部生、アイと付き合い始めた
・サエキ…同級生、男、野球部、出席番号は後半のほう、ガタイがいい、身長は高い、内部生
・ナカイ…同級生、女、学級委員、内部生
・タカイ…同級生、男、チャラ男、ユーリとセフレ発覚、よく見れば大してイケメンではないし、頭もよく

  • その他-

・シダ…同級生、F組、デブ、中学2、3年はヨシトと同じクラスだった、ムードメーカー的存在、女にはモテないらしい、剣道部、内部生
・エイジ…同級生、C組、ヨシトの親友、中学2、3年はヨシトと同じクラスだった、松田龍平似、ユーリと別れた、学校でも有数のヤリ手らしい、帰宅部、内部生
・ユーリ…同級生、女、A組、エイジと別れた、タカイとセフレ発覚
・エミ…同級生、女、ユーリの友人、A組、背が低い、明るい、内部生、28に告白してきた
・ヨウコ…同級生、女、ユーリの友人、A組、暗そうな子、外部生
・アイ…同級生、女、ユーリの友人、F組、普通の子、内部生、ヨシトと付き合い始めた
・サイトウ…同級生、女、ユーリの友人、A組、内部生、ヨシト、エイジらと中学3年は同クラス
・フジシマ…教師、男、世界史と日本史担当