くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

男前トラブル。

目覚めてから、久しぶりにヒゲを剃る為に、素っ裸で鏡を見た。まともに鏡を見るなんて久しぶりだ。俺の凄まじいイケメンぶりに、俺自身もショック死してしまうかもしれないからだ。

しかしだ。
凄まじいジャニ顔のジャニ体系をしているイケメンが鏡に映ると思いきや、そこには必死にバナナを懇願している動物園のサルのような男がいた。

その鏡だけがいかれているのではないかと思い、家中の鏡の全てを見ても、俺じゃない誰かが映し出される。おかしい。いつから俺はジャニ顔を棄て、動物園のサル顔(バナナ懇願中)になったのだろうか。

鏡を信じるな、やつらは物事をいつも反対に映すやつらだ、無理に自分を納得させるやり方に気づいたので、まあそれは良しとしよう。

ついでなので、この間の話をする。

始発に乗っていると、20歳くらいの若いおなごが電話をしながら、電車の中で泣いていた。
電車の中には俺とおなごしかいなかったのだが、電話を切っても、そのおなごの泣き声は駅を越せば越すほど酷くなっていった。

失恋でもしたのだろう。哀しいことだ。

ここで男前な俺が男前にハンカチでも取り出し、男前におなごの涙をぬぐってやろうか。そうしたらおなごの悲しみも半減どころか、オーバーフローして悲しみが2倍になる可能性もあるが、やはりそこを無視しないのが男前の所業といったところだろう。
そんなこんなで、俺はポケットの中をまさぐると、運よくティッシュが出てきた。
しかし、そのティッシュは俺の昨夜の…(以下略)なので、これを渡すのはあまりにも可哀想だと思い、思いとどまった。

しっかし、一向に泣き止む様子のないおなご。これはどうしたものか。

俺には昨夜のティッシュしか持ち合わせがないし、変に声をかけて人身事故で電車が止まっても困る。だがここで涙をぬぐえないということは自ら男前を拒否することに等しい。
俺は必死でカバンを探った。すると、夏の汗ふきようにおもむろにいれてあるタオル(100均)を発見した。

しめた、コレだ。

俺がキラキラと振り向くと、既におなごは車両を降りていた。

ここで声をかけていたら、おなごのあまりの感動で電車が遅延する可能性もあっただけに、不幸中の幸いと云ったところだろう。

もうやめてください。
なんだかいてもたってもいられなくなり、更に哀しくなるので、無駄に酒を呷って今日を終えることとする。