くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

レジスタンス。

もし人が独りで産まれて独りで生きて独りで死んでいくとしたら、誰かと一緒にいること自体が、不自然ではないでしょうか。
裸で産まれたのにも関わらず服を着ること、「未来」の保証もないのに目覚めること、ものを食べること、何も得ないのに誰かと話すこと、関わりを持つこと。
そうした営為をこなすこと総てが、自分を守り抜く為の抵抗なのです。

そして今日も自分に問いかけます。
「じゃあ、お前が抱えている哀しみは、本当に哀しいのか?」と。

街角からは今日もまた「いいんだよいいんだよ」という曲が流れています。
「みんなと一緒ならいい」んだそうです。
「人は独りじゃ生きていけないんですよ」という言葉の無力さを、俺以外の誰が知っているというのでしょう。
そんなクソくらえで盛大に余計なお世話は、毒を持たない陳腐な言葉と退屈で愚鈍な人々と共に消えうせろ!

言葉は常に意味を成さなかった。
それは当然のことだろうと今になってはそう思います。

抵抗の意味を、マイホームの意味を、安らぎの意味を、孤独の意味を。
自然体でありたいという本当の意味は「放っておいてくれ、独りでやるから」
ですから、今日こそはこの二つの言葉に精一杯の毒を込めて、捧げましょう。
「こちら側が正しい」と。
「孤独が正しいんだ」と。

自分は、いや人は、今生きている時点で、汚いんです。
そして汚れている所に光は宿りません。
その絶望の総てに身を窶して、俺はいよいよ“レジスタンス”について考え始めます。
「愛に総てを」の居場所と自分のやるべきこと。

そうかなるほど。
自分は、今まで「後悔」というものをしたことのある人間だっただろうか。
「あのときあんなことを云ってしまわなければ」と本気で思ったことが、一度でもあっただろうか。
「云ってよかった、やってよかった」と思ったことはあるのに。

死ぬなと叫んだ人間が死んでいて、死ねと思った人間は生きています。
だから、言葉なぞ総じてどうでも良かったように感じます。

毒を持つ言葉はそのまま罪であり、毒を持たない言葉もそのまま罪です。
赦されているのは静寂と沈黙。
その中で感じることを信じること。

そう思うからには他人の言葉もどうでも良いということに“なっている”のです。 
そして俺はこの“そうなっている”という仕組みが際限なく大嫌いなのです。
何故ならば意志一つでこんなものはいくらでも覆すことが出来るからです。

かつて、俺の人生は他人にとって必要なものだっただろうか、と考えたことがあります。
わかる答えはたったの一つ。
実際に、全く必要なかったことを自覚しました。
そしてとどのつまり、他人は必要ないということに“なっている”
いや、“そういうことにしたんです”意志一つで。

そう、俺は悔しいんです。
何故こうなってしまったのかと、思う自分が悔しいのだと思います。
多くの愛を手にしながら、何故自分はこうなってしまんだと。
多くの友達、多くの理解者。
そういったものを自ら棄てて、酒に逃避するこの姿。
海に還らざるを得ないという感情と帰属意識。

自分とそのほかのいろんな人は違う世界の人物。
そういうことにしておきましょう。
それなら誰も傷つかないで済むんですよ。

そして、この哀しみは本当に哀しいのでしょうか。
俺は、時代によって価値が変わるものを信じないと何度も云ったでしょう?

「清い心」に出会えば、ますますダメになっていきます。
ああ、このままどこまでダメになっていくのでしょう。
もはや陸どころか、太陽の明かりですら見えません。
なんてことだ、いつこうなってしまったんだ。
人間として、マシーンとして、くらげとして。
陸で、空で、深海で。

失ってしまったものと、取り戻したものの、差がありすぎます。
そもそも失ったものを取り戻すというのが間違いだったのかもしれないです。

他の方々が云うには、このDNAでは、どうやら世界を上手く渡ることは出来ないらしいです。

それならば、いいですよ。
別にもう、そうしてくれて。
行って下さい。
消え失せて下さい。
走って、逃げ出して下さい。
別に居場所を、懇願したいとも思いません。

大人になっても、何にもなりたくなかったんです。
ほとんどの人が永遠に知らないほうがいいことを、いくつも知ってきました。
これは、当然の報いです。
だからもう、そうしてください。
正気が俺を見捨てたのと同じように、俺を見捨ててくれて全然構わないのです。

しかし、残った孤独と哀歓のその中心で謳歌し続けられたのなら、こちら側のほうがやはり正しかったということになります。
ほとんどの人が見て見ぬふりをし続けた、絶望と自由の間で、咆哮し続けられたのなら。

いいでしょう。
自らの宿命とやらに従う気はないですが、どうやら知らない間に“そうなってしまった”ようです。
認めたくはないにしても、認めましょう。

だからこそ、自らに誓います。
レジスタンス”として、この命を懸けて、必ず自らの亡霊に復讐するということを。
ジュリエットは悠久な盲愛を渇望していてる。
短剣で心臓を切り開き、自らの血液で素晴らしい「毒」を紡いでやるんだ、ロミオ。
失血死するのは俺が先だとしても、永遠に。

偽らず、深海にて毒をもち続ける。
そして最期には、無ではなく、愛に総てが帰することを、信じろ。