くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

背ぇくらげしませんか。

閉店10分後、「早く出て行ってください」と云われました。
都会の寂しいネオン街に放り出されて、くらげは今にも泣きそうです。
だから、こころを冷たくする代わりに身体を温めてもらうのです。
虚無の生物に。
享楽な怪物に。

これだけ血を流した後に、金なんか手に入れても、こころの痛手は増えるばかりです。
愛する人が自分の周りからどんどん消えてしまって、段々と哀しくなっているのです。

その日のくらげは都会のネオンを背にして、遥か遠くにある思い出を見つめながら云うのです。
「エイさん、こんにちは、サメさん、こんにちは、もし君たちが僕を食べたくなったら、食べてね」
サメさんとエイさんは答えます。
「あなたを食べると栄養はないし、毒が回るし、どちらにしてもくらげに用はない」
ああ、それでも、群れて食べられてしまうアジさんやサバさんよりもは、この生き方のほうがマシだったんです。

そんなときは決まって、くらげを優しく扱ってくれた海ガメさんやジュゴンさんのことを思うのです。
だけど、住む世界が違いすぎます。
深海くらげは、突然陸にあげられると、内臓を吐き出すのですから。

今、くらげは大通りの石段に足を引っ掛けてぶっ倒れて、ほとんど動けないでいます。
血を吐き出して叫びながら。
誰か、ガソリンをかけて、その憐れなくらげに火を点けてください。

そしてくらげは思うのです。
「君とあんな風になりたかった」と何度も何度も。

その罪のことなんて、誰も、何も知らない。
不幸がどうやって始まるのかも、誰も、何も知らない。

それでもまた酒を飲んで、光の法則を超えて、朝が来るまでに月を超えたいと願うのです。