惜しみもせず。
僕は未だに凍りつく街にいます。
その街は文字通り、水道まで凍結するほどの極寒の地です。
誕生日を間近にして僕は、曖昧とふわふわとした気持ちを抱えています。
太陽さん、こんばんは。
いい加減、僕を照らしてください。
風と喧嘩をしたので、絶望と救済の雨が吹き荒れるなか。
暖の気配に誘われて、小さなバーに入りました。
とても豪華とは云えない、つつましいステージの上には、年代モノのグランドピアノがポツリ。
お客さんは常連と思しき数人とマスターのみ。
ぎゅうづめにしたとしても、定員は20人くらいだろうか…。
僕は断酒の盟を守りたかったので、アイスミルクを頼み、ピアノに一番近い席に座りました。
閉店まではまだまだ時間があるようで、したたかな空気だけが流れています。
机の上にノートPCを広げます。
よほど珍しいのか、カウンターの数人がこちらをチラリと見ます。
小1時間で作業を終え、客もまばらになったので、ステージの上の年代モノのピアノに触れてみました。
ぴろん、というどこか懐かしい音。
そう、それは爺ちゃんの家にあった、ボロっちい、黄土色の。
僕はマスターに断りを入れてから、数曲演奏しました。
「雨に唄えば」
「ラプソディ・イン・ブルー」
…と、
「くらげ協奏曲(仮)」
マスターから拍手を貰い、少々談笑をした後に、チップを残して去っていきました。
外は寒く、星が輝いていました。
贅沢な休日を過ごせました。
てのひらに少しだけ残った懐かしい感触を抱えながら、寝ましょう。
僕も貴女も、良い夢を。
君も貴方も、良い夢を。
単調な鼓動が鳴り響く。
外気の寒さとは裏腹に、曖昧に暖かい僕の1日。