くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

Dear Queen of Swallow

二度とは戻らない時を大事にしよう。
心から思った、そう、そんな日です。

仕事に忙殺されながらも、身体が動いていれば、頭も動き続けるものです。
天気が良くても相変わらず寒く、吐く息は白く、僕は空を見上げます。

僕が絶対に終わらないと信じていた総ては、そのほとんどが終わりました。
こうして時の流れを待つ今でも、ときどき僕は数々の日々と数々の想い出を回想することがあります。

今日も昨日と似たように風が吹きますが、昨日はもう終わったものです。
そして、明日はこれから始まるべきもの。

僕は傷ついた眼差しのままで、世界を享受しようと決めたのです。
それはいつの頃からだったか、もうほとんど覚えてはいないのですが。
何処かで置き忘れたハートが天から降ってきて、何か囁きます。
まあ、そんな朝です。
こころが曇っていれば、何処にいたって何も見えないでしょう。

だから。

今日は私心だけ綴ります。
これが僕の置き忘れたハートです。

僕は、この事については、何も書くべきことはないと想っていました。
だけど、こころの中で、今なら。

そう。
今までの僕はずっと降灰の中に隠れていて、聞こえない声を聞こうとしていた気がする。
そして、今はまだ、君がいなくて寂しい。

君のいもうとと、ちゃんと仲直りをしたよ。
赦せないことは赦せないが、僕がどんな風に云っても仕方ないのだろう。

僕には君と同じ事をさせる後悔もあったし。
君のことをあの子にそのまま投影したくなかった。
それはわがままであったのかもしれない。

頑固なのは君も然り、拘りに血は争えないということか。
性格は似ていないと思っていたけれど、そんなこともないようだね。

そこはかとなく犇く残滓のような哀しさも携えながら、時に僕を鋭く貫く言葉。
僕を頼りがいのある人間として見るときの、勝ち誇ったような上目遣いもそっくりだ。
イイワケをする時の憎たらしい態度も、反省する時の悔しそうな眼も、陽気に漂う後姿も。

わかったよ。
面倒を見るよ。
本当は腐った此処には来て欲しくなかったけれど。
でも、心配はしなくていい。
此処には頼りになる僕の友達がたくさんいる。
僕が心から信頼を置いている数々の友達と、数々の街がね。

それと、これも伝えておかなくちゃならない。

君の友達は、僕の友達には成り得なかった。
どちらにしても、彼らも未だに日々闘争しているだろう。
応援してやってくれ、それは君が彼らに残したものだろう。
それは、僕にも、君のいもうとにも出来ないこと。
出来たとしてもかき乱すだけだろう。
それならば、更に詮無きこと。
それに、僕たちにはまだやるべきことが、残っているのだから。

こんな風に描きたいと思ったのは、他でもなく、あさっては、僕の誕生日だからだ。
僕は1年ぶりに、家族と友人の前でステージに立つ。

もちろん、不安はあるよ。
もしかしたら、それしかないかもしれない。
何度経験したって、この緊張には慣れない。
それを乗り越えた時の、心地よい感触も。

最期の電話で話をした時のことを想い出した。
君は息絶え絶えにしながら、「また、あなたのピアノが聴きたい」と云ったね。

思えば僕たち、知り合ってから。
僕はいくつ、君の為に曲を創っただろう。

そして今はただ、最期を看取ってやれなかったということに対しての、偽善と嫌悪と憎悪の曲を。
君と僕が敵に回した、大人たちの為に謡ってくるよ。

去年のあの場には、君は車椅子で来ていたんだっけ。
いもうとに引きずられながら。
僕が"とっておき"を一曲弾くと、君はその場で泪を流した。
あの時のことは良く憶えている。

「アトランティック・ジェリーフィッシュ
僕らがまだ、未熟だった時代に創った青臭い曲。
君も僕の友達も君の友達も口ずさんでくれる、お気に入りの曲。
この曲だけは、もう一生弾かないだろうと想っていたんだけどね。
あの場で、僕は演奏してみることにしたんだ。
数年ぶりに。
今年は君の誕生日を、別の方法で祝うことが出来ないからね。

君が好きだった「こどもうた」も、ちゃんと謡う。
任せてくれ。

そういえば、ビジネス以外では数年ぶりに曲を創ったよ。
君への愛情の為に捧げた曲か、はたまた、僕への贖罪の為に捧げた曲か。
題名はまだつけていないけれど、きっと簡単に決まるだろう。


結論を云うとね、僕はまだ生きているんだよ。
僕の感情も、泪も、まだ生きている。
君はもう生きていない。
だからってわけじゃないけど、君の分まで、生きていると感じたいんだよ。

すまなかった。
僕を、赦して欲しい。
君を赦すから、どうか僕を、赦して欲しい。
親愛なる友よ、どうか僕を。

さあ、勇気を出して行こう。
もう一緒に哀しむことはできないが、一晩だけでも連れていってあげよう。
僕の風で、君は飛んでいけ。

そろそろ冬が去っていく。
君は冬には夏が欲しいと云い、夏には冬が欲しいと云う。
ないものねだりだという僕たちの隅には毎日笑顔が光っていた。
僕たちは君が突然いなくなって、未だ哀しみと寂しさを隠せない。
思えば、僕たちは迫ってくる運命を振り切って走りながら、苦しくなるほど笑ったよね。
それが正しかったことかどうかは、未だにわからない。
でも、君との約束だからね。
僕は最後まで喚ぶよ。
せめてお祝い事の時は、一緒に、笑おうか?

安心して欲しい。
僕たちが歩いた青春は、もう絶対に誰にも奪われたりはしないんだ。
クズな大人たちにだって、社会にだって、あの太陽にだって。
他の誰かが共有してくれなくてもいい、できもしない、僕たちだけの陽だまりは。
もう誰にも奪われたりはしないんだ。

まだ君との想い出話に、愛憎を持ち寄る僕と、僕の友達たちをどうか赦しておくれ。
君は死んではいない。
未だ、僕たちのこころに。

約束しよう。
運命の残りは僕たちが全部背負うから、僕たちが其処へ往くまで、ゆっくりとそちら側で休んでいて欲しい。
だからたまに、空で僕たちを見守ってくれる?

未だ、僕たちは、君がいなくて、寂しい。
だけど、泣かない。
闘うんだ、最後まで。
僕たちは一つだ。
せめて、あと一夜だけは。
その日、僕の音色と、仲間達の博愛で。
つばめを女王にしてあげよう。
せめて、一夜だけ。
その日、僕たちの生誕に祝杯をあげよう。


私心でした。
どうもありがとう。