くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

夏の夜。

大して暑くもないのに、夏の夢をみた。

僕は心の底から夏が嫌いだ。
冬も嫌いだし、春も秋も大嫌いだが、その中でもやっぱり夏が一番嫌いだ。

たとえば仮に、1年のうちに素晴らしい日が20日あったとしよう。
1年のうちに素晴らしい日が20日もあれば、その年は僕にとって空前の年になるだろうが、まぁいい。
その20を季節に割り振ってみるとしよう。
冬に10、春と秋に5ずつ、夏に-10。
待て、マイナスが有りならば僕の1年は-345になる。
それでは哀しいから、夏は0、良くて1だ。

とにかく僕は夏が大嫌いだ。
あんな憂鬱な日々が再び訪れようとしているのに、どう気分を前向きにすれば良いものか。
蒸し風呂のような部屋でアイスは溶け、電車の中はアウシュビッツと化し、紫外線は肌を焼き付け、デブは痩せ、老人は死に、僕はガムを踏んづける!

もう「素晴らしい季節」なんてものは何年も訪れていない。
女の子といちゃつき、世間の波に彷徨い、抵抗の淡い光を宿し、大言壮語を吐いていた少年は、とっくに去っていった!
今や死に気満々で、虚ろな表情をしている青年と、壮年と、老年と、共に行くのだ!


部屋の掃除をしていて見つけた小学校2年生頃の文集に、僕の作文があった。

『夏は、おじいちゃんと山にいったり、かぶと虫をとったり、できます。海にも、いきます。ていぼうでフナ虫をおいかけたり、できます。ぼくは夏が大すきです。だって夏は、おじいちゃんとふねにのったりも、できます。それと、まい年、いとこのひかりおねえちゃんとやくそくして、山おくの川であそんだり、砂で大きなおしろを―』

そう。
僕の夢に出てきたのは
「じゃあね、ばいばい」
そう云って空に帰っていく“元、少女”の背中を見つめながら、途轍もない程の涙を流していた夏の夜の“元、少年”である。