行こう、僕はまだ、終わってなんかいないんだ。
昨日は少し散策をしてから、叔父さんの家で誰も住んでいない爺ちゃんの家の鍵を借りて、無駄に涙と嗚咽混じりにテキストを書き殴ってから、読み返すこともなく、そのまま爺ちゃんの部屋で眠りました。
これほどまでにないくらい眠っていました。
気がついた頃には、昼の2時を越えていました。
僕は焦りながら、バスの時刻表を調べて、駅前でバスに乗り込みました。
そして、かたくなに家を離れたがらなかった婆ちゃんに面会してきました。
親父の「善意」で老人ホームに送りつけられた婆ちゃんはというと、今ではまともに僕の顔なんて覚えていないし、たぶんそこが老人ホームなのか、自分の家なのかもわかっていないのでしょう。
僕を見ても婆ちゃんは「おまえだれ」としか云わないと思ったら、手渡した芋ようかんを食い始めると、たまに思い出したように「朝の市場に行かなくちゃ」とか云い始めます。
まともに話すことも出来ないので、介護士に用意してもらったレクリエーションルームのオルガンを弾きながらお茶を濁していると「爺ちゃんが待っとる はよ、家に帰らんか!」と後ろから怒声が響きわたり、その次の瞬間にはまた生気のない眼で僕を見ます。
僕は「また来るよ」と云って老人ホームを後にして、バスに乗りました。
学校の横にある市民プールの横を通ると、元気な子供たちの声が聞こえてきました。
バスを降りてからとぼとぼと歩きました。
そして道ばたで見つけた、アブラゼミに問い詰めてみました。
+おまえはそこでなにをしてるんだ
-鳴いている 厳密にいえば羽を擦り合わせている
+なんで鳴いてるんだ
-知らん 土から出たら鳴いていた
+それは愉しいのか
-愉しい愉しくないはない そういう風になっている
+これからどうするのか
-死ぬまで鳴き続ける
+おまえはなんのために生まれてきたのか
-たぶん鳴くため
+たった夏の少しの間だけ鳴くために土の中に何年もいたのか
-そのとおり
+これからどうするのか
-死ぬまで鳴くし、鳴かなくなったらそれは死んだってことだ
+それでいいのか
-案外、悪いともいえないと思う 私はかつてケラだった、だが今は、セミだから 誰が見ても、私はもうケラなんかじゃない、セミなんだ 私はずっと鳴けなかった、だが、今は鳴くことが出来るんだ!
つまり、そういうことでした。
奴らは死ぬまで鳴くという役目があり、そのために、生きて死ぬ。
理由はというと、たぶん無い。
僕らとなにも変わらなく、それが美しいと思うのはいささか傲慢な気持ちさえします。
いつか僕は本物の生き辛さと対面するだろう。
それが一秒後か、十年後か、もっと先かはわからん。
だけど、夏を彩っては干からびていくセミや排水溝に詰まるくらげのように、何の意味もなく死にたいと思う。
「俺は泣くために生まれてきたんだ」とか自らを納得させながら、ただ誰にも気づかれずに果てたい。
だけど、たぶんそれはまた先の話。
僕は帰り支度を済ませて、ふざけた名前のローカル線と新幹線を乗り継いで、ネオンがまぶしい町に戻ってきました。
ご静聴、ありがとうございました。
明日からはまた、平常運行だ。
そう思いながら、こうして僕はまた無駄にテキストを書き殴っている。
親父のお下がりのアコギでgoogoodollsのWe are the normalとかリピートして弾きながらな。