くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

どっかーん。

昨日の土曜日の話です。金曜日の夜に浜松に用事があって、そのままそこの社宅でのんびりとしていると、僕の元に同級生のMから電話がかかってきました。僕の携帯が鳴ると云うことは非常に珍しいので、何かの罰ゲームかと思っておそるおそる出ると、Mはこんなことを云い始めました。


「明日の土曜日にEの結婚式があるんだけど、二次会にもう一人呼んでくれって云われていて、共通の友人が28君しかいないから声かけてみたんだけど一緒にどう?場所はお台場で8000円。」


お台場とかいう発情前の猿が交尾の前戯のために寄る猿山のような場所に、8000円も出させて参加させるつもりか。しかも前日、である。つまりぎりぎりまで声をかけ続けて最後の砦として僕が召集されたのでしょう。しかしイギリス紳士以上のイギリス紳士(日本出身)である僕はというと、


「Mちゃんが困っているのなら、仕方なしにいってやるよ」


と、無駄にいい男(略して無駄な男)っぷりを発揮し、うるせえ。まあこれでMちゃんが「おまえ誰も呼んでないんだって!?」と非難されることもないでしょう。そんなわけで全く懲りない猿頭のままお台場に行くことにしました。


しかし問題点がいくつかありました。Mは共通の友人と僕に云ってきましたが、確かに同級生なので知ってはいるものの、Eという女の顔が思い出せないどころか、下手したら1回も話したことないんじゃないかというレベルです。ふつう結婚式って、いくら二次会とは云えども、仲のいい人を呼びまくって、それでも呼べない人がいるから残念ってくらいの場所じゃないの。僕が行って一体何になるというのでしょう。それこそおまえだれだっけです。


まあいいです。呼ばれて、YESと云ってしまった以上、もう行くしかありません。分かりやすく云えばSAY,YESです。せっかくお呼ばれしたからには、下心の一つや二つもって、Eなんてどうでもいいからそこにお呼ばれしたかわいこちゃんの1人や2人口説いて、ついでにそこにいる3人くらいと僕が結婚式を挙げてもおかしくないのです。


しかしいざ土曜の朝、浜松のご機嫌な小鳥たちを目覚まし代わりに起きると、今から車で3時間くらいかけて猿山に行くのが非常にめんどくさく感じてきました。「このままバックれるか」という考えが頭をよぎります。Mちゃんには「オナニーで忙しい」とか云えば生理現象だし仕方ないと思ってくれることでしょう。


そんなわけで13時くらいまでだらだらと花びらをむしりながら「いく、いかない」とやったり、うさぎに話しかけたりしていると、電話が鳴りました。


「28くん、何時頃に着きそう?」


そのQに対するAはこうです。


「17時には着くんじゃないかなぁ」


そんな馬鹿げたアンサーをしてしまったせいで、急いで支度をして急いでカーにライドして東名から湾岸線を使って、猿山の看板で降りました。道がまあまあ順調だったので助かりました。到着時間は17時45分、受付は18時~、ぎりぎり間に合った。


しかしここで僕は大事なことに気づきました。確かにお台場というワードは聞いていたものの、お台場のどこなのか、までは聞いていなかったのです。いくらお台場といえども、同じなのは発情期の猿共の顔だけで、船の科学館で待機するのと東京テレポートで待機するのではぜんぜん違うのです。そんなわけで、Mちゃんに電話をしてみました。

 

かけどもかけども、Mちゃんは電話に出ません。もしかしてぎりぎりに到着したせいで怒って相手にしてくれていないのでは、と内心焦ったのですが、いきなり腹を下したのでそれよりコレだと云わんばかりに冷や汗かきながらトイレを探しましたがそれは割愛。場所のわからない猿は猿山の猿共と至る所でエンカウントしながら、途方にくれながらふらふらしているわけです。


時間が、まずい。もう時間は20時です。いくらMちゃんに電話をかけども出ません。もうこれは終わったな、と思い、それと同時に一体なんのためにここまで来たんだろうという思いに駆られました。そんな時、Mちゃんからの着信が。Mちゃんからの言葉はこうです。


「いやー、Eちゃんが、28くんが来てもいろんな人に迷惑がかかっちゃうから、気を使わないでいいよ。Mちゃん一人で来てねっていうもんだからさぁ、28くんには悪いけど…」


生まれてきて苦節25年、誰かをうれしい気持ちにしたり幸せな気持ちにはできないとしても、せめて人様に迷惑だけはかけまいと生きてきて、更に前日に頼みを聞いてやってこんな男前は世界に一人しかいないぞと思っていた矢先にこの仕打ちです。3連休の初日は部屋の掃除をしようだとか、家庭用品の買い物をしようだとか、そういう予定を潰してまで浜松から約4時間かけてきた苦労の代償がコレです。


無性に苛立ちながら、虚しくなりながらも、僕を捨て台詞を吐きました。


「いや、どうせお台場の方に用事あったし、ぜんぜん気にしなくてだいじょうぶだよー」


そうして僕はお台場で猿共が乗る目映い観覧車を背に、ライトアップされている海なんぞを眺めながら、人生とは、いや自分とはなんぞやということを考えながら、また4時間かけて帰路についたときには既に土曜日は終わっていました。もういいです。合掌。