くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

彼にとっては冬の始まりの朝だった。

その少女は誇らしげに自分の手の傷を見せたものだった。
自分の「かわいそう」を武器に涙を誘うのだった。
そういう意味では少女はとても「かわいそう」であったのだが。
少女は見せつけているようであった。
「ほら、ココを見なよ。そこじゃない。このキズだって。これが、私の心の支え!」
なあ、そう考えると自慢か。
ただの自慢なのかレディースアンドジェントルマン。
心地よいピアノの響きは安物じゃ表現できない。
僕がそう云うと、いきり立ったように少女は云う。
「誰かに喰われて死んでしまえ!誰かに喰われて死んでしまえ!」
僕はそれでもいいと思うのだけど、いったい誰が腹を壊す為に喰いますかね。
毒が入っているとわかっているものを食べますかね。
まあそういう役目は自分だけで十分だと思いますよ。

意気揚々にドアを開けて出かけて雨に打たれて帰ってくる。
泣いている笑顔は笑いながら侮辱するように。
僕の高揚感は形を成す前に奪われる。
まるではじめからそんなもの存在していなかったかのように。