くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

紐が切れないようにするために、まずそれを噛め。

基本的にくらげは、自分で遊泳する能力を持たない。流れを利用して、浮いているだけなのだ。もちろん海面に打ち上げられたら、干からびてしまう。干上がったら、水分98%の身体を以ってして消えてしまうのだ。僕は小さな頃からその姿を美しいと思っていた。毒を持っているから、よく人々に忌み嫌われるという面も含めて。

 

「ごめん、私は遠くに行くんだよ」昔の小さな背中に、今度は僕が云いたい。「ごめん、僕は遠くに行くんだよ」そう云いたい。どんな顔をするんだろうと想像している。

 

あの時も海面に打ち上げられた名もなき生命が誰にも見つからずに干からびていた。厳密に云えば、僕以外には見つからずに―。

 

まだ僕は海の傍、あの波にゆらぐボートと、空高く残る機影が忘れられない。だからまだ僕はそこに立ったままなんだと思う。もはや世の中で信じられる出来事はそれだけになってしまったのかもしれない。