そらとぶクソポエム。
2009/3/21-新宿
「僕はね、偶然ジャズだっただけなんだ。みんなが流行りものや中身のなさそうなダンスミュージックや“人生の応援ソング”なんかで自分を励ましている時、たまたま流れていた曲がビル・エヴァンスだっただけなんだ。別に、大した理由があるわけじゃない。それでその“偶然”は父さんと母さんを喜ばせなかった、ってだけの話。
僕は、人生ってやつは偶然だと思ってるよ。だって偶然の連続が、僕や君を作ってきたんだから。そしてその偶然が、人を傷つけたり、喜ばせているんだと思う。僕の場合は、ちょっとだけ人を傷つけるほうの偶然が多いだけのように思える。
だけどね、そればっかりは僕に選べなかったものなんだ。僕が自分でそれらを選んでいる様に思えるかもしれないけど、きっとそれは違うんだ。そもそもね、違うと思えないとやっていけないんだよ。だからもし、神様って奴がいるんだとしたら、僕は訊いてみたい。なんでこんなのばっかり用意してるんですか?ってさ。
だけど、僕はこの“偶然”ってやつのすべてを憎んでいるわけじゃないよ。“これ”の一つには君との出会いもあった。それだけはやっぱり感謝しなくちゃいけない。僕が10分電車に乗り遅れる“偶然”がなければ、ここでこうしてはいられないかもしれないしね。
そんな風に思える朝は、大して悪い気分じゃないんだ。どれだけ人生を憎んだり、どれだけ他人を妬んだところで、君と今ここでこうしていられるのは僕だけなんだって思えればさ。やっぱり、酷いだけじゃないんだなって。
君のために曲を作ってみた。そして今日、僕は君のためにそれを演奏をしてみた。僕があの日あの時にビル・エヴァンスを聴いていなければ、こうしてはいなかったかもしれない。もちろん、違った形の“偶然”があったかもしれないけどね。
だからそういうことをひっくるめて、君との出会いに感謝してみたいと思っているんだ。君が僕のジャズで喜んでくれる、それだけで僕の人生全部報われたと思っているから。明日もそう思っているかはわからないけど、とりあえず今は、僕なりに感謝の気持ちを伝えようと思ったんだよ。
君が幸せなら、僕も幸せだ。いや、厳密に云うのなら“君が幸せだと思ってくれる行動が出来た僕自身に幸せ”ということになるけどさ。そうやって君も同じことを思ってくれるのなら、それが一番良いことだと思う。僕にとっての片思いの相手が君で、君にとっての片思いが僕なら、二人の気持ちが一緒なんかじゃなくても、それでいいんじゃないかって。僕が君のことを好きな気持ちと、君が僕のことを好きな気持ちは決して一緒じゃなきゃいけないわけじゃない。形なんて気にしてないんだ。愛していようと、愛していまいと、そんなこと大して問題じゃない。
僕は君を介して“幸せ”の片鱗を探そうとしていて、もし君もそうなのだとしたら、それは同じことでしょう?僕は今まで独り、砂漠みたいなところを歩いて“それ”を探してみたけど、どこにも見つからなかったんだ。そして僕は今、君の“中”にその光が見つけられそうな気がしている。君がもし同じように砂漠を未だ歩いているのなら、探してみよう。
君がこの間云ってくれたように、ひとりずつで、一緒に。」
『そんなことより、てっちゃん、少し背が伸びたんじゃない?』
「そんなことって…僕なりに一生懸命話してみたつもりだけど、君には何を云っても敵わないね」
『大丈夫。ちゃんと、わかってるよ。』
-2009/3/21
2011/3/21-赤坂
「僕らが“大事な話がある”って突然叔父さんに云いだしたら、どうなるかな。僕はまだ22だけど、君の嫌いな仕事だけどまあ順調だし、ちょっと考えてみてもいいんじゃない?」
『ちょっと早すぎないかな』
「君の決心が遅いと、知らないうちにそのケーキが僕の腹に消えちゃうよ」
『ふざけんな』
「それと、こんなこと云いたくないけど、また髪を短くしたほうがいいよ、冗談抜きであっちのほうが似合うから」
『ごめんね』
-2011/3/21
2014/3/21-黒部
ご報告。
君が似合うショートヘアをいきなり伸ばしたのは、その傷跡を隠したかったからなんだね。僕のほうがごめんね。僕が君に伝えられなかったことってたくさんあったんだなって今になって気付くことが多いです。だけど、僕なりにネガティブに生きます。
君の年を数えるのは、やっぱり僕が大人になりきれないからだと思っています。もし僕が君の年を数えなくなった瞬間、それは君をいい意味で忘れられた時なんだと思います。君の好きだったCDと、お花はここに置いていきます。ねえちゃん26歳、おめでとう。君と会いたい、話したい、と思う時、皮肉にもまだ僕にも感情があるんだってことが自覚できます。僕がそこにいったら、このクソポエム含めて笑ってやってください。
叔父さんは元気、たまに一緒に釣りにいきます。叔父さんが愛した人も、ちゃんと元気です。君と歩いた道の、黒部の海は、今日も綺麗でした。生地公園ではいつものように犬が散歩したり、子供が走り回ったりしています。
君が飼いたいと云って飼い始めたうさぎの「くらげ」が4度目の出産を終えました。相変わらず食事しか興味のないやつですが、友達のいない僕にとっては大事な友達です。君を失って死ぬほど傷付いたのに、僕は彼女を見習って、もう少しだけ、人のことを愛したいと思えるようになりました。
君が好きで、未だどうしようもなく好きで、この気持ちがとてつもなく気持ち悪くて、気持ち悪すぎて少し笑えるようになりました。君がもしそっちで泣いていたり、哀しんでいたりしたらと考えると辛いので、笑っていて欲しいと強く願います。僕には何も出来ないけれど、そっちで君に話せることをたくさん増やすために、もう少し生きてみたいと思います。もう少しだけ、前に進みます。
この「もう少し」と進む“偶然の連続”はいつか君に届くでしょう。
-2014/3/21