くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

どうか、とうめいじゃない、ぼくにして。

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いつか誰かが云ってくれたように、雨の中を傘も差さずに歩いて風邪を引くように、水の中にある何かに集中するように、この想いは加速していく。


だけどそれよりも速く時計は回り始めて、ぼくは感情と行動の時差に迷っている。目が醒めた時には、既に物語は始まり、エンドロールを迎えようとしていた。彼女と並ぶ小さな少年が、涙腺の海で船を漕ぎ始める。彼らはどこかへ辿り着こうとしているのか、それとも、どこかへ逃げようとしているのか。


「笑っていれば生きているように見えるよ」そんな言葉を想いだした。それは見飽きた映画を部屋の隅で眺めていた土曜日。そしてそれは、毛布の中で聴き飽きた音楽を聴いていた日曜日。何もない日々の塊が通り過ぎていく。時間のせいにするのはもったいないから、きみのせいにすることにした。


雨の降る道を歩きながら煙草に火をつけたら、一瞬だけ、どこか懐かしい気持ちになった。


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眠る前にほんの少しだけ、見えるものに整理をつけてみることにした。ぼくはきみに、してあげたいけれど、できもしないことばかりのような気がした。真剣になるのは辛いから、曖昧なままで終わらせよう。そんなことばかりしていたら、本当に伝えたいことはいつの間にか伝わらなくなっていた。そればかりか、本当って何?ってなって、本当なんてないよね?ってなって、じゃあぼくは何?ってなって、最終的にはもう何を話すのも何を感じるのも嫌になってきた。だってぼくはぼくじゃないんだから。きみがきみじゃないのと同じように。


良い車だね。それに乗ってきみは何になれたの?それになれたら、次は何に変わるの?それ欲しいな。何かになれるのなら、ぼくも欲しいな。だけどもう気付いている。ぼくはきみに、してあげたいけれど、できもしないことのほうが多いんだって。そしてきみは良い車に乗って去っていくんだ。知ってる。知ってた。それなのに叶わないものばかり願うのはなぜだろう。月並みながらそう思うよ。こんなに言葉を創っても、ほんの少しだって伝えられることはないんだってこと、ぼくは知ってるから。


じゃあ何で続けるのって、何度も云われたよ。不思議だね。


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そろそろ帰ろうか。煙草もなくなったし、あと20分で閉店だし、人もいないし。きみもいないし、ぼくしかいないから。
外は雨降りだから、あまり出たくないけれど、おなかもすいたし、今日のご飯なににしようかな。
これ以上話してしまうと、自分が何を考えているのか、ばれてしまうから。それはぼくが一番いやなことだから。追い出される前に帰ろうか。もうこんな時間だから。
ずいぶん遅くなっちゃったな。きみに会うのも。ぼくに気付くのも。でも忙しいんだ。いちいち付き合っていられないよ。明日も仕事なんだから。早く帰って眠らないと。
もう少しここにいようかな。やっぱり帰ろうかな。雨だし、閉店だし、ぼくしかいないし、きみはもう帰っちゃったから。
泣かれるのは嫌だから、ぼくのほうから泣いたんだ。
雨だし、おなかすいたし、ぼくしかいないし、きみはもう帰っちゃったから。
帰ろうって思って、帰らなきゃって思って、だけどきっと立ち上がれないから、わかってるから、まだここにいるんだ。
きみが去ってしまうの、わかってたから、ぼくは立ち上がれずに、泣いたんだ。


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