くうちゅうくらげ

-A Boys Named No.28-

こわく、ないから。

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底の抜けた高層マンションから下を眺めていたらまともに歩くことができなくなってしまったよ。それ以来、ぼくにはどうにも必要な言葉を紡いでいくことができない。ぼくは駄目、きみは大丈夫、という不思議な設問。「こんな問いかけができるだけマシなんだ」と昭和で飾った飲み屋で彼は云う。「ぼくら誰もが弱みを抱えているんだ」って、「だから誰かと一緒にいられるためにはそれを理解し合うことが大事なんだ」って。もしそれが本当に必要なものなのだとしたら、人はずっと一人だね。


「髪を切ったからって世界が変わるわけじゃない」っていつか云ったね。それは本当のことだったね。雨が止められないように、感情も止められないのなら、雨がいつか止むように、感情もいつか途切れるものなのかもしれないね。ぼくは気付きたくはないことに気付いてしまったんだ。だからここで何もせずに生きているんだ。3時に家に帰れない。そんなことどうってことないって思いながらさ。


辛くなったらいつでも来ていいよって云われたから行ったんだ。誰もいなかったけどね。


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これははじめからぼくに用意された時間ではないから、できる限りぼくの時間にできるように努力はするつもり。パーティで、プラスティックでできたアリバイを説明していたら、イトシノアノ子はあきれた顔で、あなたとはそういうつもりじゃなかったって云い腐って消えてしまった。一人きりになったホテルの一室で云うんだ。「騙されたのはぼくのほうじゃない、そもそもあれはぼくの時間じゃなかったから」ってね。周りはぼくが存在したことを忘れて、その間にぼくはこうしてメモ帳に書き綴る時間ができるってこと。目が醒めたら、今度はこれが本当にぼくの時間になっていく。そしてぼくは云うんだ。「ぼくのせいなんかじゃない」ってね。


まあいいや。もういいよ。どうせ雲は流れていく。ここから見上げていればあれが本当の雲なんだって思える。もしかしたら昔もそうだったんじゃないかって思える。昔のことなんてわからないけど。ぼくが出すことのできる最高音のキーで心の中からさようならを云う。云いたくないけど、云わなきゃならないことや、したくないけど、しなくてはならないことがここにはあるんだよ。どうしてぼくがしなくちゃいけないんだろうって思うことも少しはある。それがこれだよ。ぼくが別れたくなくても、別れを云わなきゃいけないときだってあるんだってこと。


ポケットの中のホテルの一室のメモより。


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誰かに終わりにさせられる前に、こんなもの終わりにしてくれ。いつも思いながら、まだ終わりにはほど遠いような気もしている。そのわりには、いつでも終わりがつきまとっている気もする。そんな感情を忘れるためだけに、映画をレンタルしてきた。今夜は終わりにならずに済みそうだと、若干がっかりしながら。ひっそりと生き続けることができないのならば、ひっそりと死に続けよう。きみのアイデアボックスの中から、騎兵隊が飛び出した。その夢の中でのぼくは、イチジクを摘む、ただの農民でしかなかった。それじゃ、たまには本当のこと。遠くからきみの幸せを願っているよ。


本当に、“本当の嘘”だったんだ。じゃあ“本当”の部分は何だったんだ。ぼくは幼い頃の疑問と大人になる感覚の間に置いてあったはずのくだらないものに視線を落としてみた。そうしたが最後、ただの石ころに踏みつぶされるだけの人生。誰かが落石注意って云ってくれたよね?どうしてその言葉を無視したの?サメの尾鰭がたくさん見える海に飛び込むようなものだよ。


自分だけは食われないって、本当に信じていたの?


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これからどうしよっかな。考え中。
ぼくだけで行くのもいいし、誰かを待つのもまた一興だし、少し休憩するのもいいし、やめてしまってもいいし、気が向いたらまた戻ってくればいいし、一緒にいたければいてもいいし、去りたければ去ってしまえばいいし、何だってぼくは受け入れる。
ぼくだけで消えるのもいいし、誰かと消えるのもいいし、待ち続けてみるのもいいし、諦めてしまってもいいし、恥をかいてもいいし、恋をしてみてもいいし、愛を馬鹿にしてみてもいいし、天国で名所を巡ってもいってもいいし、地獄を旅してもいいし、部屋に籠もっててもいいし、公園まで出かけてみてもいいし、何だってぼくは受け入れる。
時間が戻ってもいいし、このまま進んでもいいし、去っていってもいいし、一緒にいるのもいいし、死んだっていいし、生きてみたっていいし、晴れでもいいし、雨でもいいし、いつだっていいよ。
答えはないし、本当はないし、嘘だってないし、だからここにいてもいいし、ここにいなくてもいいし、いつか会えてもいいし、ずっと会えなくてもいいし、会えるなら待ってみてもいいし、会えないなら去ってしまってもいいし、なんだっていいよ。
ここに来た意味はきっとあるし、ここにいる意味もきっとあるし、意味ってきっと意味ないし、意味ないってことは意味あったりもするし、めんどくさいから、このへんでいいよ。
これを終わりにしてもいいよ。これを始まりにしてもいいよ。なんだっていいよ。何にでも興味あるよ。何にも興味ないよ。ぼくがぼくじゃなくてもいいし、きみがきみじゃなくてもいいよ。
ただ目の前に見えることだけ、ただ胸の中で感じることだけ、信じてみようかな。
死んだってきっとすばらしいし、生きるのだってきっとすばらしいし、きみと一緒にいるのも、きみと一緒にいないのも、ぼくがどんなに変わっても、きみがどんなに変わっても、それでいいよ。どうでもいいよ。
これからどうしよっかな。考え中。


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